設備を作れば収入が得られるのであれば、総括原価主義と同じだ。一部のマスコミは総括原価主義を無駄なコストを生む悪の巣窟のように非難している。確かに無駄なコストもあるかも知れない。しかし、その額は大きくなないだろう。図‐3は値上げ申請時に示された関電のコスト内訳だ。削る余地がある費目は多くないように思える。
以前関電の部長と一緒に海外出張した際に部長がエコノミーの席だったので驚いたことがある。同じ時期に米国行きの機内でカジュアルな格好をした集団とビジネスクラスに乗り合わせたことがある。仕事を尋ねたところ、米国の工場の現場に指導に行く日本の自動車会社の工員さんだった。工員さんをビジネスで派遣する企業もあれば部長をエコノミーに乗せる企業もある。一つの例で判断することはできないが、電力会社は無駄な金を一杯使っているというのは必ずしも本当ではないと思う。
総括原価主義のもとで認められる収益率は総資産に対して約3%だ。これは、民間企業としてはかなり低い利益率だろう。プロジェクトであれば、こんな低い利益率で投資する企業はない。リスクがあるからだ。総括原価主義は稼働率が異なる発電設備を停電がないように建設するための仕組みだ。市場に任せれば、稼働率が低くなると見込まれる発電設備への投資がなくなることは明らかだ。電力市場を自由化すれば、発電設備が老朽化し建て替えが必要になった時に今の英国と同様の問題に直面する。
5月1日付けの英国ガーディアン紙は“ギュンターエッティンガー欧州委員会委員(エネルギー担当)が、2月に開催された欧州のエネルギー関係会議の席上「英国の原発計画はソビエトだ」と発言した”として、その後の経緯を含め報道した。この話は私が主席研究員を務めている国際環境経済研究所(IEEI)のブログで近々詳しく書く予定なので、そちらもお読み戴きたい。
エッティンガー委員は、その後発言の真意を訊かれた質問に答える形で「英国が導入を望んでいる容量市場の関連で冗談として言及した」とツイートしている。まるで「社会主義」のようだと揶揄された英国の新制度。電力市場の特殊性と自由化の問題点は日本でも十分に議論されたのだろうか。
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