テレビ朝日の「報道ステーション」は、時々シェールガス(泥土が堆積して固まった頁岩<けつがん=シェール>から採取される天然ガス)を取り上げている。4月下旬の放送でも取り上げていたが、番組の中で次の主旨の発言があった。
電気の安定供給には安定的な燃料確保が必須
「総括原価主義で、コストの支払いが保証されている電力会社は高い燃料を購入している。天然ガス価格はアメリカの6倍だ」
ゴールデンウィークの最中、あるテレビ局で電力供給を巡る討論に参加したが、そのなかで討論相手が同じ主旨の発言をしていた。米国の井戸元のガス価格との比較では日本向け液化天然ガス(LNG)の価格が6倍なのは事実だが、価格差には理由がある。総括原価主義とは何も関係がない。
電気の安定供給には、安定的な燃料の確保が必須であり、そのためには長期契約が必要となる。米国の短期の取引と日本の長期前提の取引では契約形態が異なり、価格が異なるのは当たり前だ。長期契約の価格がいつも高いとも限らない。いまは偶々、長期契約の価格が短期の取引価格を上回っているのであって、「総括原価主義なので、高い燃料を買っている」という説明は間違いだ。燃料事情や長期契約の詳細は本欄のなかで説明したい。
「原発再稼動に向けた停電テロ」発言
電気料金は、発電・送電・電力販売に関わるコストを全て足し、それに適正利潤を加える「総括原価主義」に基づき決められる。そのため、「電力会社は、コストがいくらかかっても、料金で回収可能なのでコストを気にしない。無駄な金を一杯使っている」というのが、一部のマスコミと政治家の主張で、多くの人もそう思っている節がある。大阪府市統合本部の特別顧問が関西電力との会合で「パーティー券の購入は」とか「会長・社長の給与は」と訊く姿が報道されるのは、この一例だろう。
同じ特別顧問は5月17日のテレビ朝日の「モーニングバード」に出演し、「火力発電所でわざと事故を起こす、あるいは起きた時にしばらく動かさないようにして電力不足の状況を作り出し、パニックを起こすことにより原子力を再稼働させる『停電テロ』という状況にもっていこうとしているとしか思えない」という趣旨の発言をしている。
総括原価主義でコストが認められているのであれば、なぜそこまでして、原発を動かす必要があるのだろうか。火力を動かせば燃料代は、時間差があるにせよ確実に回収可能だ。総括原価主義があるのであれば、原発は稼働させないことになりそうなものだ。この特別顧問は総括原価主義を都合のよいように解釈しているようだ。電力会社の意思決定の原則は「供給責任」にあるのではないか。
そもそも、総括原価主義はなぜ採用されているのだろうか。自然独占の電力事業で事業者が不当な収益をあげることを防ぎ、安定供給を実現するために導入された制度だ。コストは認められるが、収益率は抑えられている。安定的な供給と価格が必要な電力という商品ならではの制度だろう。総括原価主義を止め、電気を市場に任せても、料金が安くなるとは限らない。新規参入の事業者が要求する利益率次第だ。
無駄なコストが発生する可能性はあるが……
総括原価主義のもとでは無駄なコストが発生する可能性があるのは事実だ。例えば、設備を競争入札でなく、価格が高い随時契約で購入することもあるだろう。削減余地のあるコストは徹底的に見直し、削減する必要がある。