公務員は社会の公器であり、その制度設計は国家百年の大計に属するもののはずです。現在の公務員制度は、戦前の仕組みを源流とした長い歴史を持っていますから、変えるとしてもそれなりの覚悟が必要です。しかし、このところの一連の議論は、政争の具として弄ばれ、単なる「官僚たたき」の色彩を強めています。
公務員へのバッシングが強まった背景の一つに、「居酒屋タクシー」がありました。たしかに官僚がそういう特権的待遇を受けていたことに問題がないわけではありませんが、より本質的な問題はタクシー業界の過当競争であり、霞が関官僚の凄まじい残業実態であったはずです。
しかし、特にその後者について切り込んだメディアはあまりみられませんでした。どのメディアも普段官庁に取材しているなかで、官僚たちの疲弊ぶりは散々目にしているであろうにもかかわらず、です。しかも、取材をしている記者の側こそが、ハイヤーやタクシーを大量に抱えているなんていう笑えない話もあります。実態や本質を知っているにもかかわらず、そのことには触れずに、後に一種のメディアスクラムに突き進むのは、その後の中川昭一・前財務金融相酩酊事件でも同様です。
いま一度、「政治主導」、「天下り禁止」といった、キャッチフレーズに踊らされることなく、冷静に公務員制度を検討することが必要です。
官僚はそんなに悪者か?
国家行政の中枢機関が集まる霞が関。多くの官僚たちは深夜1時を回っても、空調の切れた執務室で、今日も黙々と業務をこなしています。
「残業時間は多い月で約140時間にも及ぶが、人件費の縛りもあり、サービス残業が横行している」と打ち明けてくれたのは、とある入省5年目の係長。「手取りで400万円程度」とお世辞でも高給取りとは言えない年収について、「それは承知の上。それ以上に国の政策立案に携われることにやりがいを感じる」とさらっと言ってのける姿は涙ぐましいとさえ感じます。
入省14年目のある課長補佐は「残業は月200時間を超えることもあります」と言って、手帳にメモした勤務実績を見せてくれました。手帳に記録をつけるのは、いつ過労死しても、労災認定を受けられるようにするため。実際につく残業代は月40時間ほどだというからやるせません。
「民間企業と比較したりしませんか」との問いに、「民間企業で働く同期の給与なんか考えたくもない」とつぶやいた表情は忘れられません。それでも二言目には、自らに言い聞かせるように「キャリアなら当然ですよ」と言ってのけてしまうのです。