官僚任せの政治家が政策立案や政策遂行能力を欠いたまま、政治の権限だけ増やしても、ロクなことにならないでしょう。いま必要なのは、政治と官僚の役割分担を示すことであり、官僚の改革よりも政治自身の改革を進めることのはずです。
まず、やるべきは閣議の改革です。「形骸化した閣議ではなく、英国のように総理大臣が内閣委員会の設置やメンバーを決めることでき、そこでの決定が閣議決定となるような仕組みを導入して政治的な意思決定を強化し、機動力を高める必要がある」(前出の野中教授)。そして、「官僚に代わって政治家自らが利害関係者との調整を行う」(政策シンクタンク・構想日本の加藤秀樹代表)ように追い込んでいく必要があるでしょう。
アメリカでも政治任用の問題点が議論されている
民主党の鳩山由紀夫幹事長は、政権をとった暁には、局長以上を首実検するとも受け取れる発言をしていますが、そのような政治任用の強化には大きなリスクがあります。05年8月に発生したハリケーン・カトリーナに対する、米・連邦危機管理庁のお粗末な対応ぶりは、過度な政治任用に原因があったということが、近年、デイビッド・ルイス・米ヴァンダービルト大学教授によって実証的に明らかにされています。組織内のトップを経験のない政治任用者が占めると、職員の士気も下がり、専門的パフォーマンスが低下する恐れもあるのです。
いま進められていることは、「政治家の役割を果たしていない政治家による政治主導」といえるでしょう。この構図を認識せずに官僚叩きに明け暮れれば、国家の存立基盤が揺らぐことにつながるかもしれません。
天下り根絶だけすればいいのか?
「このままいけば、40歳過ぎると、みんな隠れてせっせと就職活動に励むだろう」ある省庁の30代中堅キャリア官僚はこうつぶやきます。「正直言って、天下りを目指して官僚になる奴なんていない。だけど、40代前後から省内の競争がグッと激化するのは事実。これからは脱落しても面倒見ませんよ、省内には留めてやるけど、ろくな仕事はなくて、給料も民間より安い、最後までいても年金はかなり低い、ということなら、転職も真剣に考えざるを得ない」。
多くの同期入省者から事務次官1人に絞り込んでいく過程で、各省庁の官房(人事担当課)は、ポストに就けなかった者に“肩たたき”を行って、関連する民間企業や独立行政法人、特殊法人などの職を斡旋します。一度天下りした後も、後輩に交代していく必要があるため、2度目、3度目の天下り先が用意されます。これがいわゆる「渡り」です。
麻生首相は野党や世論の非難を浴びて、「渡り」の全面禁止、各省庁による天下り斡旋の猶予期間短縮に踏み込んだ。姿勢転換が遅かったことを除けば、概ねメディアでは好意的に受け止められています。