【コラム】米軍の「リリー・パッド」戦略
中央アジアにおける米ロの基地攻防を理解するためには、冷戦後のアメリカの海外基地の戦略である「リリー・パッド=蓮の葉」戦略を把握する必要があるだろう。
「リリー・パッド」戦略とは、池の蛙が蓮の葉から獲物に向かって飛ぶイメージのもと構築されている、小規模の基地(後述のタイプ2、タイプ3の基地)を点在させる、冷戦後の世界における新世代の基地構想である。それらの基地は、小さく、秘密主義で、外からアクセスしづらく、駐留兵の数は1,000-2,000人以下と限定的で、住宅施設や娯楽施設などもなく、設備が質素で、武器や弾薬などが実戦配備されているという特徴を持つ。これらの小規模な軍事施設はホスト国によって維持されており、そこに限定された米国の軍事兵器や兵隊がおかれているが、有事には活性化されうる。デイヴィッド・ヴァインによれば、米国はこのような小規模の軍事拠点をより多くの国で、より速く建設することを目指しており、秘密裏に進められている性格上、正しい統計データは入手不可能だが、2000年頃から米国防総省は50カ所以上建設してきただけでなく、さらに数十カ所以上の建設計画を持っていると考えられている。
コロンビア大学のアレクサンダー・クーリーによれば、米国はこれまで通りに基地を維持できなくなっていたが、政治的目的で、かつて米国が軍事的拠点を持っていなかった地域を中心に小規模な軍事施設を拡散させ、世界的なネットワークを構築することを目的としている。これらの基地構築にも相当なコストがかかるが、多くの基地プロジェクトは米国民には明らかにされていない一方、ことが公になれば、そのホスト国の民主化や(ポジティブな)政治変動がその「理由」とされるのである。
現在の米軍基地戦略は3タイプの基地から成り立っている。
・タイプ1:主要活動基地
・タイプ2:前線施設(FOSs)
・タイプ3:協力安全保障拠点(CSLs)
古いタイプの主要活動基地は、ドイツ、日本、韓国にあるような大規模な、恒久的に地域的軍事ハブとして機能してきた、また機能し続ける基地である。これらが、新しいタイプであるタイプ2,3のような小規模の軍事施設の点と点を線でつなげる役割を持つ。上述のように、タイプ2,3の基地は非常に柔軟な性格を持っており、現在、黒海地域、南アジア、アフリカ、そして中央アジアなどに展開されている。米国はタイプ1の基地の機能や規模を縮小させる一方、軍事費を上げない形で、タイプ2,3の基地を世界に幅広く展開させていくことで、点在するホスト国に米国の「足跡」を残し、効果的に世界における影響力を維持しようとしているのである。タイプ2,3の基地が推進される理由は、コスト面だけでなく、日本で起きているような、大規模な基地につきまとう「トラブル」を減らしていきたいということもあるのだという。地元住民、世間の注目、反対運動の可能性を「回避」することも重要な目的なのだ。
話はそれるが、米国は在日米軍の問題を認識しているからこそ、「痛いところを突かれた」先日の橋下大阪市長の発言にも神経質に反応していると考えられる。
このように、中央アジアに米軍基地を展開することは米国の安全保障、経済利益とって、そして新たな脅威に直面させられている冷戦後の世界戦略において極めて重要な意味を持つのである
*後篇へつづく
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