女優には緑魔子がいる。高鍋町の出身である。ただし生まれは台湾の台北市で、高校は県立宮崎大宮高校である。NHK演技研究所をへて東映にスカウトされ、1960年代の東映東京撮影所で盛んに作られた“不良性感度”良好な一連の非行少女もので悪女タイプの役を演じて評判になった。皮肉な笑みをたたえた大きな眼が印象的でインテリのファンが多かった。夫は石橋蓮司である。
監督には黒木和雄(1930ー2006年)がいる。えびの市の名門の家の生まれである。10代の半ばで軍国少年としてこの町で終戦を迎えた頃の思い出を彼の代表作である「美しい夏キリシマ」(2002年)で描いている。霧島山のふもとの町に残る彼の生家を、地元の彼のファンたちが集まって修復して撮影に使った他、全篇がほぼこの町でロケーション撮影された。そこに描き出された風景、風俗,人情の美しさなど、これは究極の望郷映画と言っていいであろう。
終戦前後の日々を描いた映画はたくさんあるが、筆者自身、黒木監督と同世代のひとりとして、あの日々の少年の混乱した複雑な感情のあり方を、こんなに微妙に、正確に描き出し得た映画は他にちょっとないと思う。撮影に協力した地元の人々は、この映画に写る野原の雑草に、敗戦後に外国から入ってきた種で変わってしまったものがあると言って、それらをみんなで抜き取ってくれたそうである。戦場から負傷して帰った兵士が、霧島山の美しさを思いながら生きのびたと語る場面などもあるが、そういうセリフを自分たちの郷土を愛する心情のこもった画面で語ってほしいという地元の人々の熱意が、手間ひまのかかる作業を可能にしたのだろう。地元発の映画の良さはそういうところにある。 (次回は鳥取県)
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