2024年12月22日(日)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2013年6月10日

 エコノミスト誌が、「A first meeting with the American president sparkles(米大統領との輝かしい初会談)」との副題をつけた、5月11日付の論説で、韓国の朴大統領の訪米は大成功であった、と述べています。

 朴大統領の就任後の出だしは良くなかった。まず、主要人事で人選を誤り、政権編成までに時間がかかりすぎ、その間、北の挑発により、地域の緊張が高まった。朴大統領の就任直前に核実験を行った北朝鮮は、戦争の威嚇を続け、開城工業団地への韓国人経営者の立ち入りも拒絶した。アジア全般の株価が上がる中で、韓国の株価は低迷した。朴大統領が多数の経済界首脳を同行させたのは、外国投資家を安心させる目的もあった。

 しかし、ワシントンでは、全てが笑顔と温かい眼差しであった。オバマ大統領が朴大統領の「集中力と自制心と率直さ」の虜になったことは明らかであり、このような両大統領の信頼関係により、今回の訪問は、朴大統領の側近達が期待した以上の成果を挙げた。

 今回の訪米は、米韓同盟60周年を記念するものであるが、北朝鮮の最近の好戦的姿勢もあり、半島の安定の砦としての同盟の意義が変わらないことを確認する機会となった。

 他方、朴大統領としては、自らの提唱する「朝鮮半島信頼プロセス(trustpolitik)」をオバマ政権がどのように評価するかについては、確信がなかった。この「信頼プロセス」は、李明博前大統領の強硬路線と、それ以前の2代の政権がとってきた太陽政策とのバランスを取るものである。しかし、李明博大統領の路線こそがオバマ政権の戦略的忍耐路線に近いものであり、そのような路線の近さによって、米韓両国のぎくしゃくした関係が大きく改善したと見られていた。

 今回の訪米で、北朝鮮を孤立から引き出すとの朴大統領の戦略についてオバマ政権の承認を得られたことを、朴大統領が大いに喜んだのは、そのような背景があったからである。朴大統領のアプローチは、挑発に対して代償は与えないが、北朝鮮が誠意を示す場合に関与の道は開いておくということである。李明博大統領との決定的な違いは、北が再び暴力に訴える場合には断固反撃することを、朴大統領が明言している点である。

 挑発に対して動揺しないことがゲームの一部であるが、最近、米韓両国とも、このゲームをうまくこなしてきた。今や、金正恩もこれまでの挑発行為から手を引きつつあるのかもしれない。東海岸のミサイル発射場からミサイル発射台が撤去され、開城工業団地についても、韓国の交渉者が平壌訪問を招請されている。朴大統領の側近たちは、冷静に対応したことでゲームが変わったと主張している。

 しかし、「信頼プロセス」は、中国が北朝鮮に圧力を加えなければ、成功しない。朴大統領の訪米の主たる目的は、北朝鮮が中国にとって戦略的な利益よりもむしろ負担になっていることを中国に説得するための協力強化にあったと言える。中国銀行が北朝鮮の主たる対外銀行との取引を停止したことは喜ばしい。北の体制を金融面で完全に締め付けることまでは考えていないとしても,中国は制裁を履行しているようである。


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