
ロシアが占領するウクライナ東部ドネツク州マキイウカで1日未明に、ロシア軍臨時兵舎がウクライナにミサイル攻撃された件について、ロシア国防省は4日朝、複数のロシア兵が携帯電話を使用していたからだとの見方を示した。動員令によって徴集された兵が大勢死亡したとみられる。
ロシア国防省は、詳しい被害状況と原因は調査中だが、兵に携帯電話の使用を禁止していたにもかかわらず、ウクライナの武器の射程圏内にある部隊で「大勢が」携帯電話を使ったことが、攻撃に遭った主な理由なのは「すでに明らかだ」と声明で説明した。「これが要因となり、敵は兵員を発見し、ミサイル攻撃のため位置を特定することができた」のだという。
被害の規模については、少なくとも89人が死亡したと発表。ウクライナが1日に、約400人のロシア兵が死亡したと発表したのに対して、ロシアは当初63人死亡としていた。
携帯電話で位置特定?
昨年2月にロシアがウクライナ侵攻を開始して以来、西側メディアは双方が相手の電話通話を傍受し、位置を特定する能力について、繰り返し報道してきた。
米紙ニューヨーク・タイムズは昨年3月半ば、匿名の米当局者の話として、ウクライナ軍がロシアの将軍の通話を傍受し、位置を特定し、将軍と副官たちを殺害したと伝えている。
同様に昨年3月、英スカイ・ニュースはロシアの電子戦システム「レール3」を取り上げた。この仕組みで特定地域に飛ばされたドローンは、携帯電話の受信機器を模倣する。ドローンが携帯電話とつながり、その端末の情報を近くの安全地帯にある受信基地へ伝え、受信基地が携帯電話の位置を解析する仕組み。
ウクライナとロシアの双方の軍が共に、携帯電話の位置を追跡する能力を持っていると広く考えられている。しかし、これが1日にマキイウカで起きた攻撃の背景になったのかどうか、疑問視する声もある。
BBCロシア語サービスは以前、動員されて間もない徴集兵から、部隊に合流するとただちに携帯電話を取り上げられると聞いていた。
その一方で、前線のロシア兵が携帯電話を使っているという複数の報告もある。これは、他の通信機器が手に入らないからだとされている。その場合、動員された兵の一部が携帯電話を使っていたことの説明になる。
何が破壊されたのか
ロシア国防省は声明で、ロシア軍がマキイウカで臨時兵舎にしていた建物がウクライナ軍の攻撃に遭ったと説明した。
攻撃後の現場の様子を示す動画には、全壊した建物が映っている。ソーシャルメディアでは大勢がすぐさま、これは第19職業訓練校だと特定した。
私たちはその建物名を手掛かりにオンライン検索し、攻撃前の人工衛星画像と、建物の特徴を比較検証した。
建物内に大量の砲弾・銃弾が保管されていたという証拠は得られていないものの、イギリス国防省は4日付の戦況分析で、「被害の規模からして、部隊の宿舎近くに砲弾が保管されており、これがミサイル攻撃で起爆し、二次爆発につながった可能性は、現実的なものとしてある」と指摘。さらに、「ロシア軍は現在の戦争のはるか前から、砲弾の保管方法が安全ではないといわれていたが、今回の件は、いかにプロらしくない習慣がロシア軍の高い死亡率に寄与しているかを浮き彫りにした」としている。
「米製ハイマースが使われた」とロシア
ロシアによると、アメリカ製の高機動ロケット砲システム「ハイマース」がこの攻撃に使われた。
攻撃から間もなく、ウクライナ国防省は一言「サプライズ!」とだけ書き、ミサイル発射の様子を写した動画をツイッターに投稿していた。
ハイマースは、5トントラックに搭載されたミサイル発射砲で、誘導型ミサイルを6発、立て続けに連射できる。アメリカがウクライナに提供したハイマースの射程は最長80キロで、それまでアメリカが提供していた榴弾(りゅうだん)砲「M777」の射程より2倍以上。
米政府はウクライナにハイマース38基の提供を約束しており、すでに20基が現地に到着したと報道されている。
<解説> ジョナサン・ビールBBC防衛担当編集委員
ロシア当局は、ミサイル攻撃で大きな被害が出たのは、自軍の兵士が携帯電話を使っていたせいだと、そう言おうとしているようだ。しかしそれが本当なら、なぜそこまで規律が緩んでいたのか。
ほとんどの軍隊は、作戦行動中の機密保持を部隊にも個々の兵士にも課している。携帯電話の使用が制限されるのも、このためだ。
このほかにも、規律の緩みがあったようだ。砲弾を保管している建物に、大勢の兵士を集中させれば、敵にとってはかっこうの標的になる。
人工衛星やドローンが、兵士の移動や日常の行動パターンを監視していた可能性もある。
ハイマースのような長距離ロケット砲がウクライナ軍を助けるのは確かだが、ミサイル攻撃の裏付けになった情報収集が、本当の決め手となったはずだ。
マキイウカ攻撃から、ロシア軍が今なお過去の失敗からなかなか学べずに苦労していることが明らかになった。ウクライナが兵舎を標的にするのは、今回が初めてではない。
しかし、ひとつ以前とは違うことがある。英セキュリティー・コンサルタント「シビリン」の代表、ジャスティン・クランプ氏は、ロシア国内での批判を見ると、このような失態を許そうという空気が前に比べて乏しくなっていると指摘する。
ロシアで今回の被害を批判する人の多くは、人命損失を重く受け止めるというよりは、戦いをさらにエスカレートさせて、ウクライナを徹底的にたたくべきだと主張しているという。
(英語記事 Makiivka attack: Could mobile phones have revealed Russian location?)
提供元:https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-64171311