2024年12月5日(木)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2023年1月19日

nipastock/Gettyimages

 エコノミスト誌インテリジェンス・ユニットのアガサ・デマリスが、米国の外交専門誌「フォーリン・アフェアーズ」のウェブサイトに12月27日付で掲載された論説‘The End of the Age of Sanctions?’で、米国の単独制裁は、敵対するロシアや中国が制裁を迂回する手段を開発しているために徐々に効果を失っている、制裁の分野でも日本や欧州連合(EU)も加えた国際協力体制が求められている、と論じている。主要点は次の通り。

 単独制裁は、無意味な外交的な声明と軍事介入の間のギャップを埋めるものとして米国の政策立案者により好んで用いられている。しかし、このような制裁は、近い将来、効力を失うであろう。米国が制裁に依存すればするほど、ならず者国家は、制裁に対して自国経済の抵抗力を高めている。米国が制裁を強要すればするほど、敵対国は抜け穴を見つけ、米国のドルの優位性と世界的な金融市場に対する監視能力を奪う結果となる。

 制裁を迂回する一つの手段は、米ドルを使わない通貨スワップである。中国は、アルゼンチン、パキスタン、ロシア、南アフリカ、韓国、トルコ、アラブ首長国連邦(UAE)他の60ヶ国以上と人民元とスワップを行い、総額は5000億ドルに達している。中国の目標は明らかに中国企業が米国の金融システムを迂回することを可能にすることにある。

 第二の手段は、国際銀行間通信協会(SWIFT)のような西側の送金システムを使わない送金システムを開発することである。ロシアと中国は、自国がSWIFTから追放される事態に備えて、独自の送金システムを開発している。人民元建ての中国の送金システムである「国際銀行間決済システム」(CIPS、Cross-Border Interbank Payment System)には、100カ国以上の1300の銀行が参加している。

 第三の手段は、デジタル通貨である。中国では、既に3億人が中国の中央銀行が発行するデジタル人民元を利用している。米国は第三国の中央銀行が発行するデジタル通貨に対して制約を課すことはできない。さらに、デジタル通貨には、監視機能があり、中国の公安当局は、疑わしい取引を追跡することが出来る。中国はデジタル人民元を世界に広めようとしている。

 これらの迂回策は、個々には米国の制裁を迂回するのには十分ではないが、これらを併せれば米国の制裁から免れることが徐々に可能になり、この傾向は不可逆的である。米中関係、米ロ関係が改善される見込みは無く、最もあり得るシナリオは、中国とロシアがこの迂回努力を加速させることであり、そのことは米国の外交と安全保障を脅かす。米国の単独制裁に影響されない金融システムは、米国の制裁の効果を減じるのみならず、テロとの戦いや核兵器の開発といった世界的な非合法活動を探知する米国の能力低下にも繋がる。

 10年以内に米国の単独制裁はほとんど効果を失うであろうが、代わりに日本やEU、他の志を同じくする国々と共同して制裁を課すことが代替策となろう。このような共同制裁を構築することは難しいであろうが、対象国が制裁を迂回することが非常に困難になる。

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 国際金融市場で圧倒的な支配力を有する米国の単独制裁が恐ろしいのは、米国企業のみならず第三国の企業に対しても効果を発揮する点である。つまり、世界中の金融機関で米国と米ドルと関係のないところは皆無と言っても良く、米国との取引から排除されることを恐れてほとんどの第三国の金融機関とその取引先企業は、米国の単独制裁に同調するのである。


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