
ウィル・ヴァーノン(モスクワ)、ポール・カービー(ロンドン)、BBCニュース
ロシア軍は13日、長く戦闘が続いていたウクライナ東部の町ソレダルを制圧したと主張した。ロシアの攻勢にとって「重要な」一歩だとしている。
ロシア軍報道官は、ソレダル制圧によって戦略的に重要なバフムートへ軍を進められるようになるほか、ウクライナ軍を孤立させられると説明した。
ロシア政府による声明としては、これは非常に自信にあふれた、野心的なものだ。
一方、ウクライナ当局はソレダルでの戦闘は続いているとしており、ロシアがかく乱用の「雑音」を情報として出していると非難した。
ソレダルでの戦闘は、この戦争でも特に多くの犠牲を出している。
戦争前の人口が1万人と比較的小さなソレダルが、戦略的にどれほど重要な場所なのかについては、異論がある。しかし、仮にロシア軍による制圧が確認された場合、ロシア政府にとっては大きな安心要素となる可能性が高い。
ソレダルでは、ロシア軍と民間雇い兵組織「ワグネル・グループ」が互いに、ソレダル攻略は自分たちの手柄だと主張しており、縄張り争いが起きている。
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ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は9日、ソレダルには「生命はほとんど残っていない」、「すべての壁が残っている建物はない」と述べた。まるで世界の終わりのような光景で、町はミサイル攻撃によって傷を負い、ロシア兵の死体が転がっていると語った。
13日の演説でも、ソレダルでは引き続き激戦が続いていると述べたが、ロシア側によるソレダル制圧の主張については触れなかった。
現地ドネツク州のパヴロ・キリレンコ知事によると、15人の子どもを含む559人の民間人がソレダルに留まり、移動することができない状態だという。
ソレダルが町として比較的小さいことから、ロシア軍にとっての重要性は、軍事アナリストの間でも意見が分かれている。米シンクタンクの戦争研究所 (ISW)は、ロシアがソレダルを制圧した可能性は高いとした一方で、ここからバフムートを包囲できるとは思えないと述べた。
それでも、ロシアのソレダル制圧が確認されれば、ロシア政府はそれを前進、あるいは勝利と捉えるとみられる。
そしてそれこそ、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領に必要なことだ。ロシア軍によるウクライナの町制圧は昨年7月以降、途絶え、それ以来ロシア軍は屈辱的な敗北を続けている。
ウクライナは昨年、反撃を成功させ、北東部ハルキウ地域からロシア軍をほぼ撤退させた。10月にはロシア本土とクリミア半島を結ぶケルチ橋を攻撃し、11月には南部ヘルソンからロシア軍を追い出した。ヘルソンは、ロシアがこの戦争が始まってから唯一、制圧していた州都だった。
こうした中、ソレダル制圧はロシア国民と冬の戦線にいるロシア軍にとって「朗報」となる。
しかし、ウクライナ軍東部司令部のセルヒイ・チェレヴァティ報道官は、ロシアによるソレダル制圧を否定。「戦闘員の戦術的な位置を明らかにしたくないので、これ以上の詳細な説明はしない」とした。
ハンナ・マルヤー国防次官は、戦闘は「一晩中ソレダルで熱く」行われていたと発言。ウクライナ兵は困難な局面でも、「勇敢に防衛を維持しようとしている」と付け加えた。
深まるワグネル・グループとの亀裂
西側諸国とウクライナの当局者は、ソレダルとバフムートでの戦闘の大半は、悪名高く残虐な「ワグネル・グループ」が行っていると述べている。
創設者エフゲニー・プリゴジン氏はここ数日、ソレダルにいるのはワグネルの部隊だけだと繰り返し主張している。10日夜には、ワグネルが町を占領したと発言。しかし翌11日には、ロシア国防省がこれと矛盾する発表を行った。
国防省による日々の報告には、ワグネルへの言及がない。13日に報告でも、ソレダル制圧ではロシア軍の空挺部隊が大きな役割を果たしたと述べている。
プロゴジン氏はこれに対し、国防省の報告を読んで「驚いた」という声明を発表した。ソレダルには「空挺部隊は一人もいなかった」と主張し、「(ワグネルの)戦闘員を侮辱」し、「他人の功績を盗む」ことを戒めた。
また、ウクライナでのワグネルの進攻を阻む最大の脅威は「自分の場所に留まりたい役人たち」だと非難した。
国防省はその後に出した声明で、ワグネル戦闘員の戦闘における「勇気と無私の行動」を称賛したが、正規ロシア軍が主役であることを再度強調した。
軍事アナリストらは、ロシア軍とワグネル・グループ間の緊張について長く議論してきた。オリガルヒ(富豪)のプリゴジン氏は公の場で軍高官を批判しており、これには11日にウクライナ侵攻の指揮をとる総司令官に任命されたワレリー・ゲラシモフ軍参謀総長も含まれる。
ロシア軍は9月末以来、30万人の予備役を動員してきた。一方、プリゴジン氏はロシア国内の刑務所で戦闘員を募集しているとみられている。
ウクライナのアンドリイ・イエルマク大統領府長官は、仏紙ル・モンドの取材で、ロシアの犯罪者が前線へ直接送り込まれては死亡していると指摘。
「ソレダルは市街戦になっており、両陣営とも町を制圧したとは言えない」と語った。