インフレで死にたくない
今年4月10日、中国の各メディアが中国人民銀行(中央銀行)の公表した一つの経済数値を大きく報道した。今年3月末の時点で、中国国内で中央銀行から発行されて流通している人民元の総量(M2)は初めて100兆元の大台に乗って103兆元に上ったという。
ドルに換算してみると、それは米国国内で流通している貨幣総量の1.5倍にもなるから、経済規模が米国よりずっと小さい中国国内では今、「札の氾濫」ともいうべき深刻な流動性過剰が生じてきていることがよく分かる。
2002年初頭、中国国内で流通している人民元の量は16兆元程度だったが、11年後の今年3月に、それが103兆元の巨額に膨らんだのは上述の通りだ。11年間で流動性が5倍近く増えたことは、世界経済史上最大の金融バブルと言えよう。
こうした中で、2009年末から中国で大変なインフレが生じてきていることが、今年1月16日掲載の私のコラム(「2013年の中国経済インフレで死ぬか、経済減速で死ぬか 新政権が迫られる究極の二者択一」)で指摘した通りであるが、中国経済は今でも、2011年夏に経験したような深刻なインフレ再燃の危険性にさらされている。そして、食品を中心とした物価の高騰=インフレが一旦再燃すると、貧困層のよりいっそうの生活苦で社会的不安が拡大して政権の崩壊につながる危険性さえある。
温家宝氏の後を継いだ今の政府はようやくこのような危険性に気がついたようだ。だからこそ中央銀行からの資金供給を抑制する方針を固めた。先月1カ月間、共産党機関紙の人民日報が金融政策に関する論文を6つも掲載して中央銀行は資金供給の「放水」を今後はいっさい行うべきではないと論じたのも、中国人民銀行総裁の周小川氏が先月27日、中央銀行としては今後も引き続き「穏健な貨幣政策を貫く」と強調したのもまさに金融引き締め政策の意思表示であろう。中国政府はやはり、「インフレで死ぬ」ようことはしたくないのである。
しかしそれでは、彼らに残される道は一つしかない。要するに「経済の減速で死ぬ」ことである。というのも、中央銀行は今後資金の供給を抑制する政策を貫いていくと、各商業銀行の「金欠」はこれからも長期的に続くこととなり、一連の恐ろしい連鎖反応がそこから始まるからである。