つまり、経済全体の成長の3倍程度の伸び率で「ハコモノ作り」としての固定資産投資が拡大してきたのだ。とにかくこの数十年間、中国全土で公共事業投資と不動産投資を中心とする「世紀の大普請」が盛んに行われていて、道路や鉄道や不動産などがむやみに造られてきた結果、経済はそれなりに急成長が出来た。
企業の設備投資過剰も深刻
しかし、このような「投資依存型」の成長戦略は当然、多くの深刻な副作用を生み出している。たとえば不動産投資をやり過ぎた結果、江蘇省常州市や貴州省貴陽市などの中小都市を筆頭に、町一つ丸ごと造っておきながら誰も住まないという「鬼城現象」(ゴーストタウン)が全国に広がっている。不動産開発大手の万科公司の王石会長も「このままでは不動産バブルが崩壊して社会的大動乱が発生するだろう」との悲鳴に近い警告を発したのはつい最近のことだ。
公共事業投資の拡大も当然、深刻な投資過剰を生み出している。たとえば江蘇省には、省内に今まで9つも空港が濫造されているが、その中の7つは長年赤字経営を続けているという。ちなみに、中国全国で造られた180の空港のうち、今や約7割が赤字経営であることが判明している。
企業の設備投資の過剰も深刻だ。たとえば国家の基幹産業である鉄鋼産業の場合、今までの設備投資拡大によって年間10億トンの鉄鋼を造れる生産能力を持つようになっているが、実はそのうちの3億トンの生産能力はまったく使い道のない過剰能力であり、設備投資の無駄は実に壮大なものだ。
そしてよく考えてみれば、上述のような大規模な不動産投資も企業の設備投資も全部、銀行からの融資を頼りに行われてきたものである。各地方政府の行った公共事業投資にしても、その資金源の大半はいわば「影の銀行」から捻出するものであるが、「影の銀行」の持っている資金はその出どころをたどれば、やはり正規の各商業銀行からの流出である。
しかし、企業や地方政府の行う投資拡大は結局上述のような莫大な不動産在庫や企業の生産過剰を生み出したから、このような無責任な投資拡大への銀行からの放漫融資の多くは当然、回収不可能な不良債権と化していった。貸し出した資金が回収できなくなると、各銀行は当然、大変な資金不足に陥ってしまうのである。
このようなことは今までにもよくあったが、前任の温家宝首相時代、一般の銀行が「金欠」となると、中央銀行はすぐさま彼らに救済の手を差し伸べて無制限の資金供給を行った。しかしその結果、中央銀行から放出された貨幣の量が洪水のように溢れてきて深刻な流動性過剰を生み出した。