ASEAN諸国にクサビ
「日比」に先立つベトナムのグエン・フー・チョン書記長とのテレビ会談は、両国の外交関係樹立50年の節目に行われた。
外務省によると、首相は日本の新しい国家安全保障戦略を説明。インド太平洋構想の実現に向けて、東、南シナ海、北朝鮮の核問題などでの連携強化を呼びかけ、先方も「戦略的な課題で協力していきたい」と応じた。
ベトナムは、1978年のカンボジア侵攻に端を発した翌年の中越戦争以来、中国と対立を続けている。最近では南シナ海の西沙(英語名パラセル)諸島の領有権をめぐってフィリピン同様、中国と国際司法裁判所への提訴(ベトナム勝訴)を含む抗争が展開されている。
菅義偉首相(当時)が2020年、就任後初の外遊先としてハノイを訪問し、重要パートナーとしての姿勢をみせ、氏は退陣後の23年1月にも再訪、日本側の関係重視を印象づけた。
日本は中国の影響を受けている国への働き掛けも展開する。
巨額の経済支援によって北京との強い結びつきを維持しているカンボジアのプラック・ソコン副首相兼外相が1月に来日した。林外相との会談では、インド太平洋構想の実現に向けた連携強化で一致。日本側には、中国との関係にクサビを打ち込もうという意図があるが、外務省発表の表現だけを見る限り、まるで同盟国になったような印象だ。
対中包囲で重要な役割を担うのは東南アジア諸国連合(ASEAN)諸国だけではない。最近、中国が急接近している太平洋島しょ国も無視できない。
岸田首相とミクロネシアのパニュエロ大統領との会談が2月2日に行われた。ワーキングディナー、共同記者会見も設定する厚遇ぶりで、先方はインド太平洋構想への完全な支持とコミットメントを伝えた。
日本からは医療器材3億円の無償資金協力が〝お土産〟として供与されたが、ミクロネシアは奄美大島と同じ広さ、人口は約11万人。3億円の無償協力が民生にもたらす効果は少なくない。このほかにも、2月7日に日クック諸島首脳会談、8日には日マーシャル外相会談もそれぞれ行われている。
太平洋島しょ国のソロモン諸島など8カ国には22年5月、中国の王毅外相(現中国共産党政治局員)が歴訪し、「米国主導のインド太平洋構想」への対抗する目論見をうかがわせた。島しょ国は、台湾有事で米中が直接、間接に矛を交える事態になった場合、重要な戦略的拠点となる。太平洋戦争中、この地域、海域で日米両国が覇を争ったことを考えれば、明らかだろう。
今回、日本が会談したのは王毅氏の歴訪国を除く各国。島しょ国において日中の影響力の範囲が鮮明になる可能性がある。
日本外交は思惑通りに運ぶのか
ことし1月、岸田首相訪米時の日米共同声明は、「中国による国際秩序と整合しない行動」、「北朝鮮による挑発行為」などでインド太平洋構想は大きな挑戦に直面していると強調。そのうえで、「ASEANの中心的な役割を支持、太平洋島しょ国との拡大しつつある連携をより強固にする」と述べ、「同盟国として言葉だけでなく行動を通じて平和と繁栄を実現する」と宣言している。
米国が、自ら処理できない問題について、それぞれの地域の有力な構成国に問題解決をゆだねることは過去にもみられた。02年、北朝鮮の核開発再開が明らかになった際、イラク侵攻を控えていた米国は、中国に協力を要請、6カ国協議の議長役を担わせた。
岸田首相訪米の際、両首脳の間でどのようなやりとりがあったのかは明らかではないが、中国への対応を米側が日本に要請した可能性は十分に推定しうる。