日比首脳会談の見出しが躍った2月10日の新聞朝刊各紙。片隅の短い記事に気づいた読者はほとんどいなかったろう。
「午後4時45分から5時19分、ベトナムのグエン・フ―・チョン共産党書記長とテレビ会談」(産経新聞「岸田日誌」)。
東南アジアで中国と対峙する両国首脳との会談が重なったのは、「たまたま」としても、ここに至るまでの動きは決して偶然ではなかった。岸田文雄首相、林芳正外相は2月に入ってから、太平洋島しょ国、他の東南アジア首脳らを相次いで招き、萩生田光一自民党政調会長は台湾で蔡英文総統と会談した。中国を念頭に置いた動きであるのはいうまでもない。
年初の日米首脳会談で謳われた同盟深化を背景に、ウクライナ問題に忙殺される米国に代わって日本が対中連携をリードするという暗黙の合意が実行に移されはじめた。
日比、中国への名指し批判も同然
2月9日の岸田首相とフィリピンのマルコス大統領との会談、その後の夕食会で両首脳は、東、南シナ海の現状への懸念を共にし、「力による威圧、緊張を高める行動に反対、透明で公正な開発金融が重要」と確認した。中国を名指しで非難したも同然だろう。
会談後の共同声明をみると、両国関係の意義を強調した前半部分は、「法の支配に基づく自由で開かれたインド太平洋」にほとんどが費やされた。2国間問題でも、自衛隊による防衛当局者間の教育・訓練の強化、戦略的寄港、防衛装備品・技術の移転など安全保障一色といっていい内容だった。あわせて首相はフィリピンのインフラ整備に6000億円という巨額の支援を表明した。
フィリピンが中国と、南シナ海の南沙(英語名スプラトリー)諸島の領有権をめぐって争っているのは周知のとおり。安倍晋三政権時代の2013年と16年、日本は中国の海洋進出をけん制するため、巡視船12隻を供与した実績がある。
中国に傾斜していたドゥテルテ前政権の退陣を機にフィリピンを引き戻そうという意図があるのは明らかだ。