その背景として、過去数年間、中国の台頭を、20世紀初頭におけるドイツの勃興と対比して論じる論文が多く出ています。岡崎久彦著『二十一世紀をいかに生き抜くか』の最終章もその対比に触れています。
それに対して、「当時のドイツと今の中国は違う」と言って、米中は衝突路線にはない、中国包囲網政策やアメリカのアジア回帰戦略などは冷戦の焼き直しだ、既成大国と新興大国との間に従来と違う新しい関係を築くのだ、というのが、中国の「新しい大国関係」論です。したがって、そう言うこと自体に目的があるだけで、内容は、従来の中国側の主張を変える意図は全く無く、米国に対して中国を新たな大国と認めて譲歩させることを求めているだけです。
にもかかわらず、これは今後の中国の主張として定着する可能性はあります。それは、世界の二大国は米国と中国であり、世界の問題はこの二大大国で話し合うべきだというG2的発想を、暗黙の間に米国に認めさせる効果があります。
また、それをスローガンとして言い続けていれば、米国内のリベラル・ハト派からは、それに肉付けする議論が生まれてくる可能性もあります。現に、米中関係は、20世紀初頭の英独関係でなく、19世紀後半の英米関係のように、既成覇権国英国が、新興大国米国に対してカリブ海の制海権を渡して、その後1世紀以上にわたる米英関係を築いたという議論もありました。ただし、ポール・ケネディによれば、英国が西半球の覇権を譲ったのは、カリブ海の海上覇権維持にはまだ余裕があったが、米英戦争となると、陸ではすでにカナダの防衛が不可能となっていたという事実が背後にありました。
ただ、21世紀の東アジアの国際情勢の大勢においては、中国という新興大国に対して、日米同盟を強化してバランスを取るということは王道であり、米国の識者の中にもそこから決してぶれない人たちも居るので、米国の政策も、いずれはそこに回帰せざるを得ないだろうと思っています。
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