「風しんの追加的対策」にナッジを
佐々木先生 今後は、ナッジなどの行動経済学的な手法と伝統的な手法を、どううまく「使い分けるのか」または「組み合わせるのか」が重要なテーマになりますね。
先生と私で進めている「風しんの追加的対策」の実証事業も、同様のテーマに分類できます。来年度44歳~61歳を迎える男性には、風しんの公的接種が行われてこなかったので抗体の保有率が低く、そのために先進国では珍しく、日本は風しんの集団免疫を獲得できていません。
私たちは、厚生労働省の委託を受け、風しんの抗体検査の受検やワクチン接種を促進するためのメッセージを開発してきました。
大竹先生 そうですね。厚労省は対象年代の男性の抗体検査・ワクチン接種を無料化して、居住自治体が対象者にクーポン券を郵送しました。補助金や積極的な情報提供などの伝統的な手法が講じられているのに、目標とする受検率・接種率には大きく届きません。
対象者の男性がどのように情報を認識して意思決定しているのかに着目する、行動経済学的なアプローチとの「組み合わせ」が必要になる場面です。
佐々木先生 アンケート調査をして驚いたのが、対象者の2人に1人が「子どもの頃に、風しんのワクチン接種を受けた」と回答したことでした。実際には公的な予防接種が行われていないのに、です。
でも、昔の記憶って正確ではないですよね。私も、子どもの頃にかかったのが風しん・水ぼうそう・はしかのうちどれだったかは、よく覚えていません(汗)。
クーポン券が届いても「たぶん予防接種を受けたから大丈夫」と考えて、抗体検査を受けない人が相当数いるんじゃないか、というのが私たちの着眼点でした。
大竹先生 行動経済学では「誤認識」と呼びますが、その可能性に気づきを提供するナッジ・メッセージを開発して、メッセージ付きのリーフレットや動画を制作しました。22年度に効果を検証し、23年度からは協力してくれるいくつかの自治体や企業でリーフレットや動画が展開される予定です。
佐々木先生 ただ、無料化の終了する24年度末までに目標を達成するためには、協力先をもっと増やしていく必要があります。
行動経済学の「実践」では、実務機関と密に連携して、伝統的な政策手法との使い分け・組み合わせに考慮しながら、効果的な実装戦略を立てることが重要なんだと、日々実感しています。
2022年7月、対象年齢の男性のうち、19~21年度に風しんの抗体検査を受検していない人(8750人)に調査を行った。「子どもの頃に、風しんのワクチン接種を受けたかどうか」を質問したところ、実際には公的な予防接種は行われていないにもかかわらず、2人に1人(55%)が「受けた」と回答した。
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