2年間続いた本連載も、今回が最終回です。たくさんのご支持をいただき、本当にありがとうございました。最終回の2回シリーズでは、大阪大学感染症総合教育研究拠点特任教授の大竹文雄先生にお話を伺います。大竹先生は、日本の行動経済学会の設立メンバーの一人で、行動経済学のさまざまな研究を行われるとともに、その実践にも携わってこられました。
後編では、行動経済学・実践の「未来」について展望します。
後編では、行動経済学・実践の「未来」について展望します。
佐々木先生 大竹先生は、新型コロナウイルス感染症対策分科会のメンバーとして活動してこられました。行動経済学は、新型コロナ対策にどのように取り入れられてきたのですか?
大竹先生 パンデミック初期の頃、国民一人ひとりに接触回避や感染予防対策を自発的に徹底してもらうために、行動経済学の知見を踏まえたメッセージを考案しました。佐々木先生との共同研究により、「あなた自身のため」ではなく「身近な人のため」と利他的なメッセージで呼びかける方が徹底してもらいやすいことが分かりました。
佐々木先生 行動経済学だけによらず、広く経済学の見地から積極的に政策提言されていた印象があります。
大竹先生 感染症対策と社会経済活動の両立のための提言には、医療提供体制の拡充のように、伝統的な手法に着目したものも多いです。
20年夏に、新型コロナ重症者の受け入れで生じる医療機関の損失を補償する、事前の一括給付金を提案しました。受け入れなかった場合は事後返還してもらうものです。実際は、病床確保を約束すれば補助金がもらえ、重症者を受け入れなくても返還されない仕組みで実現されましたが……。
佐々木先生 伝統的な政策手法にフォーカスが移っていった理由は何ですか?
大竹先生 行動経済学的な手法の必要性が段々と低下したからです。ウイルスの特性が明らかになり、治療方法も整えられました。
変異株の出現によって弱毒化とともに伝播性が高まり、個人の行動変容が感染拡大の抑制に貢献する効果が小さくなったことも理由です。足元の課題は、メンタルヘルスの悪化など負の影響を踏まえながら対策の中身を更新していく必要があるのに、意味の薄れた対策が定着しすぎていることです。