2024年11月18日(月)

社会の「困った」に寄り添う行動経済学

2023年1月30日

 本連載ではこれまで、地方自治体や民間企業におけるナッジの実践事例を取り上げてきました。今回は一転して、3人の現役高校生が授業「課題研究」の中で取り組んだ、ナッジの実践事例を紹介します。課題研究とは、高校の学びの集大成として課題や研究方法の選定から検証までを生徒が主体的に行うことで、問題解決能力などさまざまな能力を養うための授業です。
 広島大学附属高校3年生の堀井彩帆さん、花田彩芽さん、両見真純さんと、彼女たちの活動をサポートされた同校の阿部哲久先生にお話を伺いました。
 

佐々木先生 今年、別の高校の生徒さんから私のもとにメールがあって、「校内の課題解決にナッジを活用しようと思っているのでアドバイスが欲しい」という依頼を受けました。みなさんと同じように、身近な課題の解決にナッジを活用したいと考えている高校生は、全国にたくさんいるのかもしれません。

 広島大学附属高校のみなさんは、どのような課題に取り組んだのですか?

堀井さん 校内の自転車置き場の停め方がバラバラだという課題を、ナッジで解決したいと思いました。他にも、感染対策としての消毒液利用の徹底や教室内のカバンの置き方の改善なども検討しました。

 私たちの高校は約半数の生徒が自転車通学をしていることから、より重要な課題だと考えて自転車の整列駐輪に取り組むことにしました。

佐々木先生 メッセージのポスター、イラストのポスター、地面に養生テープを貼るなど、さまざまなナッジ介入を行っていますが、どのように発案したのですか?

両見さん メッセージは、コンビニのトイレの貼り紙などを参考にしました。養生テープは、コロナ禍で社会的距離の確保を促すために活用されていることを授業で学び、そこから発想しました。

花田さん 地面に落とし穴を描くようなトリックアートも検討しましたが、ちょっと難しそうかなと断念しました(笑)。

阿部先生 大学・高校教員の有志による「経済教育ネットワーク」で、ナッジが紹介されています。私自身も興味があり10年前から勉強し、授業で生徒に共有してきました。

佐々木先生 事前には、どの介入に最も効果があると予想していたんですか?

花田さん 養生テープのナッジです。自転車を停めるときには視線が下を向くので、壁のポスターよりも、地面のテープの方が目に入りやすいだろうと思いました。

佐々木先生 効果測定のための結果指標が特徴的です。「自転車を美しく停められているか」の指標として、自転車が真っすぐかどうかを評価する「角度」と、自転車間の距離が均等かどうかを評価する「分散」を採用しています。

 同じテーマで取り組んでも、「生徒の意識が変わったかどうか」などアンケート調査で評価する人が多いと思います。でも、意識と行動にはギャップがあります。客観的な結果指標を考案して、地道に測定しデータを収集された点が素晴らしいです。大学生でもなかなかできないと思いますよ。


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