2024年12月23日(月)

科学で斬るスポーツ

2013年7月18日

 男子陸上100mが、久しぶりにニュースの話題をさらっている。日本人初の9秒台の実現性が高まっているからだ。

第47回織田幹雄記念国際陸上男子100m予選を走る桐生祥秀選手
(写真:築田純/アフロスポーツ)

 きっかけは、4月29日、広島で行われた織田幹雄記念国際陸上大会予選。けがに泣かされながらも、昨秋になって10秒21、10秒19とユース世界最高記録を連発した桐生祥秀(京都洛南高校3年)が、自らのベストを大幅に伸ばす10秒01(追い風0.9m)の好タイムをマークした。

 100mの日本記録は、現在日本陸上競技連盟短距離部長を務める伊東浩司(甲南大准教授)が、1998年にバンコクで開かれたアジア大会で記録した10秒00。それに次ぐ歴代2位ということだけでなく、爆発的な加速、他を寄せ付けないストライドの伸び、軽やかなフォームを見せたのが、若干17歳の高校生であったことに多くの関係者は圧倒された。風向風速計が国際陸連が公認する条件の一つとする超音波式でなかったため、世界記録にはならなかったが、記録自体は20歳未満が参加するジュニア世界タイ記録に相当し、日本記録更新、つまり夢の9秒台への期待は日増しに膨れあがっている。

科学に基づく「走りの感覚」を身に着けた桐生

 成長途上の桐生のすごいところは、これまでの日本人選手が習得してきた科学的な分析、それに基づくトレーニングによって「走りの感覚」の核心を身に着けているところにある。多くのスポーツ科学の専門家が「これまでみたことのない選手」と口をそろえる。

 伊東のほか、歴代3位(10秒02)の朝原宣治、同4位(10秒03)の末続慎吾らが、研究者らの科学的分析のうえに独自の理念で培ってきた「走りの感覚」を受け継いでいる。

日本人の骨盤は後ろに傾いている人が多い.欧米人は前傾が多い。欧米人は、足の裏の筋肉がつきやすい。
『かけっこの科学』 (高野進著、学研)より

 その一つが「スタートから15歩は、前傾している」という桐生の発言に現れる。つまり前に倒れるように走っている感覚を意味する。これは日本人の体の構造を熟知していることを示し、伊東、朝原ら歴代の日本人トップ選手らが取り組んできたことに通じる。

 世界記録9秒58をたたき出したウサイン・ボルト(ジャマイカ)をはじめ、欧米系選手の骨盤は横から見ると前傾し、お尻の筋肉(大臀筋)、大腿部の裏側の筋肉(ハムストリングス)などがつきやすい。もっこりお尻が盛り上がっている選手が多いのはそのためである。

 一方、日本人の骨盤は後ろに傾き、大腿部前側の筋肉、腹筋がつきやすい。以前は、「ももを高く上げること」「地面を真っすぐ蹴る」ことが早く走るコツとされたが、これでは前に進む推進力は、ななめ前方に逃げてしまう。サイドブレーキがかかってしまうような走りで、今では否定されている。これを最小限にするのが前方に倒れるような走り方である。


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