2024年11月21日(木)

科学で斬るスポーツ

2013年7月18日

伊東のユニークな練習「お辞儀走法」

 この走りを本格的に実践したのが、日本記録保持者の伊東だった。400mハードル選手で、世界陸上で2度銅メダルに輝いた為末大は、著作『日本人の足を速くする』の中で、伊東のユニークな取り組みについてこう記す。

 「ある時、お辞儀したまま走っているような、極端な前傾姿勢で走り始めた。そして、お辞儀走法に合う体幹の筋肉強化に取り組んでいた」

 400mの日本記録44秒78を持つ高野進・東海大教授は、「伊東は、本来10秒30止まりの選手」だったするが、伊東は、筋力より技術を重視し、どう走れば効率的か、科学的な試行錯誤を繰り返し、その通りに体を動かし、能力を開花させた。

桐生は45m地点でトップスピードに達し、時速41.9㎞

織田記念陸上100m決勝レースにおける桐生(上)と山縣(下)のスピード曲線。横軸は100mを10分割。縦軸は秒速。 (日本陸上競技連盟提供) 拡大画像表示

 桐生は、この前傾姿勢を自分のものとし、滑らかなスタート、そして短時間でトップスピードに到達することに成功した。これは陸連が、織田記念の決勝レースを、高速度カメラで撮影、分析した結果と一致する。決勝は、桐生と、ロンドン五輪で、日本スプリント界のエースに躍り出た山縣亮太(早稲田大)との一騎打ちとなった。桐生10秒02で1位、山縣10秒03の2位。追い風が2mを超え、参考記録となったが、2人の差はわずか20cm、わりばし1本分の差しかなかった。

 このレースで、桐生は、スタートから40~50mの区間でトップスピードに達し、秒速11.65m(時速41.94km)だった。一方、山縣のトップスピード到達地点は桐生から遅れること10m。50~60mの区間で、速度は11.57m(時速41.65km)だった。桐生の加速の鋭さが数字から読み取れる。前半のこのリードが縮まったのは、桐生の失速が、山縣の失速より大きかったためだ。

 100mについて独自の哲学を持つ朝原は、スタートから40mまでを「第1加速区間」、次の40~60mは「第2加速区間」と呼ぶ。第2加速区間は、最も速いトップスピードに達する。60m以降は、トップスピードを維持し、減速、失速を最小限にし、できるだけ等速区間を長くするのが重要と分析する。


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