英フィナンシャル・タイムズ紙の米国エディターのエドワード・ルースが、3月29日付の論説‘Biden’s awkward democracy summit’で、バイデンの民主主義サミットの目的は崇高であるが、成功させるためにはその手法に問題があると論じている。主要点は次の通りである。
・民主主義サミットには、インド、イスラエル、メキシコなど、疑問のある国々が数多く参加する。他方、ハンガリーもトルコも招待されていないことは注目される。
・バイデンの意図は崇高であるが、バイデンの手法には疑問の余地がある。
・民主主義を広めることが米国の国益だと考えることは合理的だが、問題は、米国はこのことにあまり得意ではないことだ。
・米国の民主化推進で文句なしの成功を収めたのは、戦後の欧州に対する「マーシャルプラン」だけである。民主主義の運命は、いわゆるグローバル・サウス(西側でも中露枢軸でもない世界の一部)で概ね決着することになる。彼らの考えを聞いてみるのが現実的であろう。
・国連での投票記録から判断するに、グローバル・サウスの多くはウクライナの運命にほとんど関心がない。彼らの言い分は、西側諸国は自分たちの紛争にあまり関心がないではないかというものだ。
・西側が耳を傾けると、グローバル・サウスは一貫して、クリーンエネルギーへの移行、より良いインフラ、近代的な医療のための資金支援を要望する。中国と米国、2つの大国のうち、どちらの助けが多いかで彼らの政治的将来や外交的な同盟関係が決まることになる。
・バイデン政権は、グローバル・サウスに米国の一貫したアプローチを打ち出そうとしているが、それがまだ作業中だ。中国はこれまで、西側諸国を全て合わせたよりも多くの資金を開発途上国に投入しており、良い結果も悪い結果も出ている。
・マリ、カンボジア、ボリビアといったグローバル・サウスの国々が民主国家になるか否かは彼らが決めることだ。その道を歩ませる最善の方法は、説教を減らし、傾聴を増やすことだ。
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バイデンが提唱した民主主義サミットの第2回会合が、3月29日から30日まで、オンラインで開催され前回より8カ国増えて120の国や地域が参加したとされる。バイデンは、21世紀を民主主義と権威主義の対立の世紀と位置付けており、このサミットは、民主主義国の結束と中国の封じ込めを狙ったイニシアティブであるが、内外からは様々な批判がある。
中露の枢軸に対抗する地政学的観点からは、非民主主義国の協力を必要とする時、あるいは、グローバル・サウスの取り込みが重要な時に、これらの国々を米国から遠ざけてしまうという批判がある。人権派の観点からは、民主主義に逆行している参加国があり、参加の基準が不透明で恣意的だとの批判がある。
また、融和主義者からは、このサミットは世界の分断を深めるものだとの批判がある。ただ、これは中国の主張でもある。
上記のルースの論説は、人権派の立場からバイデンの狙いは評価しつつも、参加国の選択に一貫性がないことに苦言を呈すると共に、その手法に問題があるとして、むしろグローバル・サウスの主張や要望に耳を傾け、そのニーズに沿った支援をすることが結局はこれらの国々が民主主義を選ぶことに繋がると言いたいようである。
そして、これらの批判派が一致するのは、このサミットはトークショーに過ぎず意味ある成果は生まないだろうという点であろう。