2024年12月23日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2023年3月24日

naruedom/Gettyimages

 米ワシントン・ポスト紙コラムニストのマックス・ブートが、2月20日付の同紙掲載の論説‘Pay attention to Indonesia. It will help determine the future of Asia.’で、インドネシアがアジアの未来を決めるとして、特に東南アジア諸国連合(ASEAN)議長国である今年は、東南アジア、更には世界的に主導的地位にあるインドネシアに、米政府のみならず米国民も一層注目すべきだ、と指摘している。要旨は以下の通り。

 インドネシアは重要性に見合う注目を米大衆から受けていない。人口は世界第4位。世界第3位の民主主義国で、世界最大のイスラム教徒多数派国家。電気自動車(EV)バッテリーに必要なニッケル生産は世界最大、コバルト生産も世界第2位になり得る。対中エネルギー供給のほとんどが通る戦略的に最重要のマラッカ海峡を擁する。

 東ティモールの例外を除けば、インドネシアは独立以降統一されており(パプア独立運動はいまだ暴力的軍事占領と闘っている)、民主主義国にもなった。国際的評価は様々だが、ミャンマーやタイのような軍事政権には陥らず、インドのような大衆迎合扇動主義にもなっていない。

 経済的奇跡は起こしていないが、過去10年間、1兆ドル以上の経済の中では、中印以外で最も早く成長しており、1人当たりの国内総生産(GDP)は4332ドルで高中所得国だ。

 人口、経済成長などから見ればインドネシアは世界的影響力を持つべきだが、そうなっていない。インドネシアは1950年代には非同盟運動の中心で、過去の植民地化のトラウマから、国民の大多数は大国から距離を取りたいと考えている。

 今日インドネシアは他国と同様、米中三角関係の中で生きている。中国は最大の貿易相手だが最大の安全保障上の脅威でもあり、南シナ海では領海を巡り中国と対立している。米国は領土の一体性確保に有益な同盟相手たり得る。結果、外交は二股だ。国軍は米国主導のスーパーガルーダ・シールド共同訓練に参加している。インドネシア人は米国に憧れてはいないが、中国ファンでもない。

 バイデン政権はインドネシアの重要性を認識し関係緊密化に努力しており、海洋安全保障、グリーン・エネルギー、サイバー対策など、あらゆる分野で協力を拡大しようとしている。インドネシアは対中同盟に参加するつもりはないが、ミャンマー民主化などの他の優先事項で米国と緊密に協働している。

 米国防省高官は、ASEAN議長国である今年は東南アジアのみならず世界的に主導的地位にあるインドネシアに特に関心を払うべきで、米政府だけでなく米国民からも一層注目されるべきだ、と言う。同国は、アジアの将来を決める上で、今後大きな影響力を持つことになるだろう。

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 この論説は、米国民にインドネシアの重要性を分かりやすく説くもので、内容的には驚くような点はない。ただ、このような啓蒙記事をワシントン・ポスト紙が掲載すること自体は、重要で良いことである。


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