6月25日にオバマ大統領は米国の新しい温暖化・気候変動対策を発表した。大統領は1期目の2009年11月に05年比温室効果ガスを20年に17%削減する提案を行ったが、この政策を実行するための排出枠取引制度は議会の反対にあい葬られた。この苦い経験を踏まえ、今度の政策案では議会の協力がなくても実行できるように、環境保護庁の規制を利用した石炭火力発電所の廃止による二酸化炭素の排出削減を計画している。さらに、国務省、エネルギー省なども動員し中国からも温室効果ガス削減の協力を取り付けている。
気候変動問題に真剣に対処したいとの大統領の強い意志の表れだが、政策の裏には巨大な中国市場を舞台に環境ビジネスを開拓したいとの思いが透けて見える。そのために国際金融機関に新興国の石炭火力発電所建設向けの融資を中止させたほどだ。素直に温暖化・気候変動対策に力を入れているだけとは思えない。
「オバマの石炭に対する戦争」とCNNを筆頭に米国の多くのマスコミが報道した米国内の石炭火力廃止の前提はシェールガス革命だ。しかし、そこには大きな落とし穴が待ち受けている。そのため、今回の気候変動対策が本当に実行されるかどうか大きな疑問符が付く。
対策発表前にオバマ大統領が行った周到な準備
気候変動対策を発表する前、6月7日、8日にオバマ大統領は習近平国家主席とカリフォルニアで会談し、気候変動問題も話題にしたと報じられた。オバマ大統領は25日の演説でも習主席との会談に触れ温暖化効果が高い冷媒ガスHFCの生産と消費を協力して削減することに合意したと述べている。しかし、合意は突然になされたものではない。
オバマ大統領は、米国の温室効果ガス削減目標を発表した09年11月に、中国胡錦濤前主席との間で、電気自動車、シェールガス開発、エネルギー効率改善など7分野での協力関係に関する覚書を調印している。気候変動問題に対処するためだ。しかし、その後大きな進捗はなかったことから2期目のオバマ政権は中国との協力関係の強化にも乗り出した。
4月に訪中したジョン・ケリー国務長官は中国との気候変動問題に関する共同声明に調印している。声明の中で、両国は気候変動に関し国連の場を含め様々な議論を重ねてきたこと、さらに気候変動が悪影響を及ぼしている科学的な見地を認め、温室効果ガス削減のため共同して取り組むことを謳っている。そのために気候変動に関する両国のワーキンググループが設立された。
5月21日に宣誓を行いエネルギー省長官に就任したアーネスト・モニツMIT教授は同日の職員に対するスピーチの中で「気候変動に関する科学的な見地に関し曖昧な点はない。関係する科学者の97%が人為的な原因で気候変動が発生していると認めており、議論する意味のないことを議論しても仕方がない」と述べ温暖化懐疑論を一蹴した。その上で、気候変動とクリーンエネルギーを最優先課題として挙げた。