産炭地の議員たちは将来の石炭産業の雇用を懸念しているようだが、電気料金の上昇による産業と生活への影響も心配すべきだ。電気料金のほうが大きな影響を与える可能性がある。
モニツ長官は問題に気がついているようだ。大統領の発表の翌日議会の答弁に立った長官は必ずしも石炭火力の廃止を考えている訳ではなく、「今後はCCSを設置することになる。既にエネルギー省はCCSに60億ドルの支出を約束している」と述べている。CCS設置は大きな投資になり関連産業界にはメリットをもたらすが、電気料金にも大きな影響を与える。電気料金の値上がりは避けられない。さらに、米国は新興国にもCCSを売り込もうとしている。
中国、新興国でも石炭への戦争をしかける米国の狙い
オバマ大統領は途上国の石炭火力発電所建設への公的資金の融資を禁止した。世界銀行、欧州投資銀行、欧州復興開発銀行が直ぐにこれに続いた。最貧国で石炭以外の選択肢がないケースを除きCCSを設置しなければ、公的資金の融資を受けられなくなった。米国内だけでなく国外でも石炭の消費を削減させることを狙っているようだが、国内消費が減少した分米国の石炭輸出は増え、輸入は減少している。図‐3の通りだ。さらに大きな石炭消費増が期待されるアジア向けに西海岸に3つの石炭輸出港湾を建設する計画もある。
石炭火力への融資を中止しながら、石炭輸出を増やす。この矛盾を解決する方法はCCS設置しかない。米国技術が役立つことになる。4月に合意され、習近平主席とオバマ大統領の会談で確認された米中の協力については概要が7月10日国務省により発表された。トラックからの排出削減、CCSの商業化への協力、送電線網の近代化などが対象になっている。
米国にとっては自国技術を売り込むチャンスだ。さらに、中国での石炭の消費を抑制する決め手は、やはりシェールガスだ。中国では車からの排ガスによる大気汚染も問題になっているが、ガソリン車を天然ガス車に切り替え排ガスを抑制する動きもある。今年末までに北京の天然ガス車導入は1万台になる見込みだ。運輸部門でも国内産シェールガスが果たす役割は大きいと期待されている。
大きな可能性を持つ中国のシェールガス開発
米エネルギー省によると中国のシェールガスの埋蔵量は米国のほぼ2倍の1275兆立方フィートあるが、採掘井戸は60本しか掘られていない。米国では約20万本の採掘井戸がある。中国での生産は大きく出遅れている。この理由は、掘削に必要な大量の水の不足、中国内の脆弱なパイプライン網、掘削が深くなる中国の地質条件が挙げられているが、最大の原因は採掘技術の遅れと言われている。