2024年11月22日(金)

安保激変

2013年8月14日

バイデン副大統領のアジア訪問の意味

 このような背景を考えると、7月22日から6日間の日程でバイデン副大統領がインドとシンガポールを訪問したことは重要な意味を持つ。すなわち、閣僚レベルでは「中東は基本的にケリー国務長官、アジア太平洋はホワイトハウス」という主導権の分業体制が、ある程度はっきりしたということだ。

 上院議員として30年以上ワシントンで活動してきており、議員生活を通じて上院外交委員会に所属し、外交問題にも深くかかわってきたバイデン副大統領は、大統領に就任するまでにこれといった行政経験も外交経験も持たなかったオバマ大統領にとってあらゆる政策問題で知見を得ることができる頼もしい相談役だ。そのバイデン副大統領は、これまでも、国内問題にかかりきりになりがちなオバマ大統領に代わって、外交・安全保障政策に関するホワイトハウスの意向を代弁してきた。

 特にアジア政策においては、第一期政権の際も、「中国を含むアジアと米国がかかわろうとするとき、日本を通ることなくしては成り立たない」という趣旨の演説をワシントン市内で開催された会議で行い、オバマ政権の中国への関与政策は決して同盟軽視ではないのだというメッセージを送った実績を持っている。今回のインド・シンガポール訪問でも、「インドは我々のアジア太平洋回帰において不可欠」(7月24日インドにて)「米国のアジア太平洋回帰へのコミットメントを改めて伝えてほしいというオバマ大統領の要望により訪問した」(7月26日シンガポールにて)などと述べ、オバマ大統領自身が「アジア太平洋回帰」路線を強く志向しているというメッセージを出している。さらに今年の秋にはバイデン副大統領が日本及び中国を訪問する予定もあるという。

 もともとはアジア専門家としては知られていないバイデン副大統領をあえてこれだけアジアに行かせる--このことはつまり、第二期オバマ政権においては「アジア太平洋回帰」はホワイトハウスによって牽引されることを示している。国内で難しい政策課題を抱え、外交・安全保障政策でも中東和平プロセスだけではなく、ますます流動化するエジプト・シリア情勢、イランでの新指導部発足など、大きな変化を予感させる動きが続き、短期的には中東に関心を向けざるを得ないオバマ大統領の代わりに「オバマ大統領はアジア太平洋回帰にコミットしている」というメッセージを最も説得力をもって発信できるのがバイデン副大統領というわけだ。

それでも懸念される外交・安全保障政策の「空洞化」

 「アジア太平洋回帰」路線が継続されるというのは日本にとっては朗報に違いない。しかし、閣僚レベルから一段下がった中堅幹部ポスト、特にアジア太平洋政策にとってカギとなるポストの中で大幅に人が入れ替わり、また空席が続いているポストがあることは、今後の日米関係を考えると懸念材料だろう。


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