全国8万社の神社を統括する神社本庁(東京都渋谷区)内には伊勢神宮式年遷宮広報本部が設けられ、とくに首都圏のマスコミ対応や全国各地での神宮神宝展開催などにあたった。今回は若者へのPRにも重きがおかれ、遷宮のイメージソングは、前回は演歌界の大御所である北島三郎であったが、今回は元チェッカーズの藤井フミヤが抜擢されている。こうした取り組みが功を奏し、これまで参拝者は中高年の男性の団体が多かったが、若い女性や子連れのファミリーの姿などが目立つようになった。参拝者層の変化について、「人々の意識が変わり、本物志向になってきたからでしょう」と神宮司庁広報室の吉川竜実課長は指摘する。広報戦略が、人々の意識の変化にもマッチしていた。
伊勢神宮、神社界の積極的な広報活動の根底には、遷宮を支える財源確保の問題がある。式年遷宮は内宮、外宮をはじめ14の別宮すべてで社殿を新しくする造営と、約1500点を数える御装束神宝(おんしょうぞくしんぽう)調製を含む大事業で、今回の総費用は550億円にのぼった。第2次世界大戦以前は国の予算で賄われていたが、終戦後は神道指令により、国家を離れて、この大事業を行うこととなった。第59回(昭和28年)からは民による遷宮、つまり、人々の募財によって遷宮は行われているわけである。神社離れの風潮を懸念する神社界は危機感をもって、今回の遷宮に臨み、広報を周知し、募財を集めたのである。
また、地元の伊勢商工会議所をはじめ、三重県も観光施策としてこれまで以上に伊勢を取り上げ、官民一体となった取り組みも見逃せない。
そして、リーマンショックという世界的な金融危機、東日本大震災、それに続く福島原発事故という未曾有の災禍に見舞われた時代背景も大きい。人々はこれまでの価値観に疑問を感じ、人知を超えた目に見えない力への畏敬の念から、日本古来の自然への信仰を取り戻してきたのではないか。その拠り所となったのが、20年に一度の式年遷宮で常に若々しいという「常若」の精神が根付く伊勢神宮だったのである。
式年遷宮の繰り返しにより、伊勢神宮は世界「遺産」にはならず、今も特別な地、聖地でありつづけている。そこに、人々は不安を払拭し、明日への希望をつなごうとしているのではないか。1300年の長きにわたり、継続してきた式年遷宮のある伊勢神宮。そこにはまた、確かな未来も見えるのである。(WEDGE Infinity限定記事)
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『伊勢神宮 常若(とこわか)の聖地』 千種清美氏インタビュー
ひととき9月号特集 「御遷宮奉祝大特集 お伊勢さんの式年遷宮」
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