2024年4月25日(木)

この熱き人々

2013年9月16日

 同時に、介護とは何だろうと考えるきっかけにもなった。しかし、入所者や利用者一人ひとりに何をしたらいいのかという具体的なケアについては話すことができても、もっと広い意味で、介護とは何だろう、人と人との関係はどうしたらいいのかといった話はなかなかできない。そんな思いを抱えていた頃、『驚きの介護民俗学』を読んだという長く福祉の世界で仕事をしてきた人物が訪ねてきた。大きな施設ではなく、小さな施設の中で人と人が関わり合っていくことを目指したい。ハードはあるが、ソフトを充実させていきたい。熱く語るその人と意気投合し、一緒に仕事ができれば新しい展開が生まれるかもしれない、そんな期待を胸に、今「すまいるほーむ」の運営にあたっている。

 ここで利用者たちと一緒に過ごすことは楽しい。研究者として興味の尽きないフィールドであると同時に、まだ迷いの場所で、どう生きていったらいいのか戦っている自分に、エネルギーを与え自信をもたせてくれる場所でもあるという。

 「研究者としても、ひとりの人間としても欠かせない場所です。大学にいた頃は、民俗学者と自分で言うのに戸惑いがあったんです。でも今は周囲が認めるかどうかはどうでもよくて、胸張って民俗学者ですと言える気がします」

 民俗学の豊潤なフィールドに日々身を置いて、たくさんのお年寄りとともに過ごす時間が、六車を人間としても学者としても豊かにたくましく育んでいる。民俗学が介護の世界で生かされることで、高齢者が自分を肯定して最期を迎えられれば、介護の現場に希望が生まれる。が、一方で過酷な仕事である厳しい現実も立ちはだかる。新鮮に驚ける六車のナイーブな感受性が再び消耗しないことを祈りながら、ホームを後にした。

(写真:赤城耕一)

六車由実(むぐるま ゆみ)
1970年、静岡県生まれ。大阪大学大学院博士課程修了後、東北芸術工科大学東北文化研究センター研究員を経て同大准教授に。08年に退職、翌年から静岡県東部地区の特別養護老人ホームに介護職員として勤務。12年より沼津市のデイサービス管理者。社会福祉士、介護福祉士。
                                      

◆「ひととき」2013年9月号より

 

 

 

 
 

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