チャイナ・ウォッチャーの視点

2013年9月2日

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阿古智子 (あこ・ともこ)

東京大学総合文化研究科准教授

1971年、大阪府生まれ。香港大学大学院博士課程修了。在中国日本大使館専門調査員、学習院女子大学准教授、早稲田大学国際教養学部准教授などを経て、2013年から現職。専門は現代中国論。著書に『貧者を喰らう国 中国格差社会からの警告』(新潮社)がある。

 正和島は、2011年に劉東華(中国企業家倶楽部創始者、雑誌『中国企業家』首席顧問)らが始めたインターネットメディアを主なプラットフォームとする企業家コミュニティだ。2011年12月29日、正和島試行開幕式で式辞を述べた劉東華は、「獅子は最も獅子を信用する。獅子が自分でよいと思うものは他の獅子にも紹介する。鷹がよいと考える物は他の鷹にも紹介するし、他の獅子も鷹も信用する。獅子が狸によい物を紹介するといっても信じがたいだろう」(注1)と述べている。業界の有力者が互いに信任を得て、それぞれに有益となる情報交換や活動を行うというわけだ。審査に通れば、会費を納め、入会することができ、会員は「島親」と呼ばれる。現在、会員は2000人以上に上っている(注2)。

王瑛の「退島」騒動

 正和島をめぐる騒動は今年6月初め、十数社を招いて行われた投資に関する座談会で、正和島の中心メンバーである柳伝志が発言した内容を、そこに参加していた同島総裁の黄麗陸がインターネット上で発信したことが発端となった。黄麗陸によると、柳伝志は以下の2点について発言したのだという(注3)。

 (1)国内においても欧米から見ても景気の先行きは不透明である。

 (2)企業家にとって最も大切なのは集中すること。「在商言商」(ビジネス界ではビジネスについて話す)が重要で、政治は議論しない。現在の政治経済の環境において、しっかりビジネスを行うことが我々の本分だ。

 柳伝志の言う「在商言商」は、分かりやすく言うと「企業家は政治に口を挟むな」ということだろう。これは、明らかに正和島内で政治に対して活発に発言していたメンバーへの牽制を意味していた。ネット上で企業家の政治参加の是非をめぐる議論が盛り上がる中、女性企業家の王瑛は、突如「退島しました」と書き込んだ。

 現在、大手投資ファンド・中恒聚信投資基金管理有限公司の理事長を務める王瑛は1953年生まれ、文化大革命の時期には内モンゴル自治区で6年間下放生活を送ったこともある。北京市石家庄区の裁判所と司法局で10年働き、中国経済体制改革研究所副主任などを務めた後、広東省に移り、20年あまりに渡っていくつかの企業で役員として働いた。その一方で、人文学や思想を論じるサイト『世紀中国』を創立し、『東方』雑誌社の社長も務めた。現在は、「社区(コミュニティ)参加活動」というNGOの理事でもある。正和島には2012年4月に参加した最も初期のメンバーであり、「瑛姉さん」と呼ばれ、島の中核メンバーらから頼りにされていた。

 しかし、中国社会が抱える問題に鋭く切り込む発言が目立つようになり、王瑛が中心となって展開している「馬小平を探そう」という活動も話題を集めている。こうした中で、柳伝志の「在商言商」発言があり、「企業家は政治を語ってはいけないのか」という疑問を持ち、「退島」に至ったのである。

*「馬小平を探そう」
2012年2月9日、『南方週末』紙が「1人の中学教師の“教育家の夢”」でヒューマニズムを重んじる教育を実践した中学の国語教師・馬小平を紹介した。それに着目した王瑛は、馬小平に関するインタビュー記録や追悼文など多くの文字資料を集め、インターネットで広く発信した。現在、馬小平のような教師を全国各地で探そうという活動が続いている(注4)。

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