チャイナ・ウォッチャーの視点

2013年9月2日

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阿古智子 (あこ・ともこ)

東京大学総合文化研究科准教授

1971年、大阪府生まれ。香港大学大学院博士課程修了。在中国日本大使館専門調査員、学習院女子大学准教授、早稲田大学国際教養学部准教授などを経て、2013年から現職。専門は現代中国論。著書に『貧者を喰らう国 中国格差社会からの警告』(新潮社)がある。

 ところが2011年5月16日、王功権は「すべてを捨てて王琴と駆け落ちする」と微博(ミニブログ)で宣言し、世間を驚かせた(王琴は江蘇中孚投資有限公司の創業者)。王功権は1カ月後、駆け落ち生活を止めて家庭に戻ったのだが、2012年1月には鼎暉創業投資基金を辞職し、アメリカに遊学する。アメリカではコロンビア大学で「公民社会と公共財産監督」というプロジェクトに参加したという。現在は「退役企業家」や「閑人」と自称し、講演活動を行ったり、昔から好きで熱中してきた詩歌をつくったりしているが、市民社会の発展に力を尽くすことを大きな目標に掲げており、社会的弱者の救済、平等に教育を受ける権利の推進、文人や画家、社会活動家の支援などを行っている。

 王功権はアメリカに行く際、「何をもくろんでいるのか」と多くの人に聞かれたという。当時担当していた7億ドルに上るファンドの運営権を放棄するなど、多くの犠牲を払わなければならなかったからだ。

「革命を起こそうというわけでもないのに」

 王瑛にしても、王功権にしても、政治に首を突っ込むというよりは、市民社会の発展のために積極的に貢献しようというスタンスを取っている。しかし、周りは彼らを警戒し、距離を取り始める。王功権は「ビジネスの世界にいる友人たちは皆恐れて私と連絡しなくなった。多くの人が私は危険だと言っていると伝わってくる。(中略)自分は革命を起こそうというわけでもないのに」と話す(注6)。

 王瑛は「退島」騒動の発端となった柳伝志の発言について、「企業家が柳伝志と同じことをしても反対はしない。しかし、柳伝志のように企業家集団におり、地位も影響力もある企業家が、今に至ってそうした発言をしなければならないのだろうか」と疑問を投げる(注7)。彼らは、企業家たちが過剰に反応し、社会的役割を果たさなくなることを恐れている。

 王功権は、柳伝志の述べた「在商言商」が話題になっていた際、微信(自分が承認したメンバーのみにメッセージを送ることができるソーシャルメディア)を通じて、自分が考える「在商言商」というのは、(1)執政党の政治組織に入らない、(2)特権と共謀しない、(3)人民代表として政治に参加し政治を議論したり職責を果たしたりしない、(4)政府・公共権力と結託したり、賄賂を渡したりしない、(5)政治の圧力を避けるために企業の業務に犠牲を払わせない企業家だと説明している(注8)。つまり、「政治に関わるな」というのなら、「政治と癒着・結託するな」ということであり、中国の政治とビジネスが抱える問題について、極めて厳しい評価を下している。

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