チャイナ・ウォッチャーの視点

2013年9月2日

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阿古智子 (あこ・ともこ)

東京大学総合文化研究科准教授

1971年、大阪府生まれ。香港大学大学院博士課程修了。在中国日本大使館専門調査員、学習院女子大学准教授、早稲田大学国際教養学部准教授などを経て、2013年から現職。専門は現代中国論。著書に『貧者を喰らう国 中国格差社会からの警告』(新潮社)がある。

「九二派」
――体制内エリート出身のビジネスリーダー

 正和島のような会員制コミュニティではないが、企業家を分類するカテゴリーとして最近目にするようになった「九二派」も注目される。「九二」は「1992年」、つまり、鄧小平が南巡講話で市場経済化の一層の推進を説いた年だ。その前後に、役人や研究者の職を辞してビジネスの世界に飛び込み、企業家として成功を収めたのが九二派である。

 雑誌『中国新聞週刊』副編集長や『南方週末』記者などを経て、現在『ボアオ観察』の執行総経理を務める陳海は、2012年に出版した『九二派』において、九二派を陳東昇(秦康生命保険会社CEO。自身も九二派に分類)が定義した言葉とし、彼らは元々、社会の主流を占めていた政治体制内のエリートであり、社会的責任感や使命感が強く、資源やネットワークを動員し、特徴のある理念を掲げてビジネス界を率いていると紹介している(注5)。九二派のリストに名を連ねているのは、毛振華(中国誠信信用管理有限公司社長)、郭凡生(慧聡網董事局首席)、馮侖(万通社長)、潘石屹(SOHO中国社長)、易小迪(創建陽光壹佰社長置業集団有限公司社長)など、模範とされるような企業のトップである。

交わる企業家と社会活動家

 先に紹介した王瑛と並んで、『南方人物週刊』(2013年8月2日)に紹介されている王功権も九二派に分類される。私が王功権を知ったのは、今年7月に拘束された人権活動家・許志永の釈放を求める呼びかけ人にジャーナリストや学者と共に名を連ねていたことがきっかけだった。なぜ、企業家がこのような活動をしているのかと不思議に思い、王功権に関する記事を調べ始めた。

*許志永
北京郵電大学講師。汚染粉ミルク事件の被害者ら社会的弱者に対する法的支援を展開するなど注目を浴びてきた弁護士連盟「公盟」の主要メンバー。2009年に公盟の脱税容疑で一時拘束され、142万元の追徴課税を要求されたが、国内の企業家約70名から寄付を集め、全額を納付した。今年7月になって、許志永は再び拘束され、一部メディアは8月に公共秩序騒乱の疑いで正式に逮捕されたと報じている。役人の財産公開や教育の平等を求める運動を全国規模で展開していたことを重くみられた可能性がある。拘束後、改革派経済学者の茅于軾や著名なジャーナリストの笑蜀、『南方人物週刊』の何三畏、王功権らが釈放を呼び掛け、2000人以上の賛同署名が集まった。

 1961年生まれの王功権は大学卒業後、勤務していた吉林省党委員会宣伝部の職を1980年代末に辞し、経済改革の先陣を切っていた海南島で馮侖、潘石屹、易小迪、劉軍、王啓富と出会い、万通集団を設立する。彼らは企業家として注目を浴び、「万通の六君子」と呼ばれた。1998年以降は、鼎暉投資基金管理会社などで投資家として腕をふるい、投資業界の「ジェームス・ボンド」と称されるほどにまでなった。

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