刈屋建設(岩手県宮古市)は、県内では比較的降雪の少ない沿岸部の地域だ。だが、手放しでは喜べない。入社25年目の上野裕矢常務取締役は「まとまった雪が降るのは年に2回くらいなので、オペレーターを育成する機会が限られる。また、逆に何日か降り続いてしまうと手は回らなくなる」と明かす。
この地域では、融雪剤を撒く機会の方が多いという。「撒くか否かの判断は基本的には任されている。ただ、撒かずに路面凍結などが原因で交通事故が起きれば取り返しがつかないし、地域の方々からも『刈屋建設の区間は危ない』と思われたくないので、迷ったら撒くことにしています」。
「人は減るのに業務量は増えている」
上野常務は東日本大震災の教訓を語り継ぐ活動もしており、静岡県、愛知県、高知県など、県外も含め1年に2回程度は講演会に赴いている。
「当時見た光景や、聞いた音など、何か参考になることがあれば、との思いで話しています。社員への対応も重要です。例えば、万が一大きな災害があった時、集まる場所を事前に決めておくこと。また、集まった人への声掛けも大切です。みんな責任感が強いので、家族や親族が行方不明でも作業しに来てしまう者もいる。こちらから声を掛けてやらなければ、我慢して頑張ってしまうんです」
行政に対する要望もある。「震災によって復興関連の道路がかなり整備され、利便性は上がりました。ただ、維持管理は今後も必要。人は減るのに業務量は増えています。だから行政側で、道路の中でもある程度の優先順位をつけてほしいです」(上野常務)。
動画の一節を再度引用したい。「自然から守られる暮らしとは、誰かがその陰で自然と闘うことだ」。
取材をすればするほど、建設業の世界にはわれわれが普段知ることのない苦労があった。彼らの存在はこれまで、あまりに〝当たり前〟すぎたのかもしれない。「感謝されることは少ない」という感覚は、取材に応じた全ての建設業関係者に共通していた。
〝当たり前〟は誰かがどこかで頑張っているからこそ成り立っている。安全・安心は、決してタダではないのである。