まず、原子力を今後とも国策の「公益電源」として位置づける場合には、廃止される総括原価主義による料金規制の代替手段として、(1)国(又は同等の信用力を持った公的機関)による債務保証、(2)引取価格保証(温暖化対策として、英国で類例)、(3)送配電会社又は卸電力取引所が、希望する電力会社の原発による発電電力の一定量を常時調達する契約を結ぶことなどが考えられる。
次に原子力を新たに「競争電源」として位置づける場合には、安全規制を含む諸規制の変更に伴って回収できなくなった逸失利益を資産として計上し、その償却費用(stranded cost)を託送料金から回収する仕組みを用意する必要がある。
さらに、今後発送電分離議論が進む中で、法的分離下での持ち株会社やグループ各社の資金管理や資金調達の制度設計が決まってくるにしたがって、原子力事業の再編を余儀なくされるケースもあろう(図2では「中長期的経営オプション」と表示)。
こうした事業再編が余儀なくされる場合には、政府としては事業再編に必要な資金の供与(出資、債務保証等)、税制措置(登録免許税の減免等)、上記stranded costの取扱方針の明確化、独占禁止法上の措置(適用除外、要件明確化、審査迅速化等)、安全規制上の認可状態の継承その他関連法規の許認可迅速化などを検討する必要がある。
国主導で解決すべきバックエンド問題
原子力発電を維持・継続していく上での最大の阻害要因になっているバックエンド問題については、使用済み燃料の処理や廃炉以降最終処分に至るまで、国がより主体的な責任を持って政策遂行の役割を担う必要がある。そのための統合的な政策を企画立案する行政組織として原子力委員会に代わるバックエンド政策本部を内閣の直轄組織として設置する。
さらに、この原子力バックエンド政策本部が決定する基本方針にしたがって、官民の事業進捗のペースや規模を調整するメカニズムとして、(ア)特認法人又は特殊会社「原子力バックエンド機構」を設立するオプション(例えば国が3分の2、電力会社が3分の1を出資する恒常的組織として設立。政策の継続性や責任の所在が明確)、(イ)「原子力バックエンド事業調整官民合同協議会」等の緩い官民連合体を設立するオプション(中間貯蔵や再処理は現在民間の事業であり、急激な変化による混乱を回避)が想定される。
バックエンド事業は相当長い期間(少なくとも100年以上)存続可能な事業体が担うことが必要になるため、当初は前述(イ)のオプションから始まることになったにしても、中長期的には(ア)のオプションへと移行させていくことが適当である。すなわち、一つの主体が廃炉、中間貯蔵、再処理、放射性廃棄物の最終処分及び横断的研究事業全体をその傘下に統合し、実行責任を統一的に担っていくのである。
その際、費用を最小化するとともに事業を効果的に実施する等の観点から、英国のNDA(Nuclear Decommissioning Authority)のモデルなどを参考とし、事業戦略の意思決定は機構、事業実施は民間へのアウトソーシングによることを基本とする。