2024年12月11日(水)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2024年2月7日

 Foreign Policy誌(電子版)に1月18日付で掲載された論説‘Iran Is Flexing Its Muscles—and Hurting Itself’は、イランがシリア、イラク、パキスタン領内のイランに敵対する勢力の拠点に対して攻撃を行ったのは、イランが近隣諸国との友好関係よりも自国の安全保障を優先することにした結果だが、既に不安定な中東情勢をより不安定化させるだろう、と論じている。要旨は次の通り。

2024年1月19日、パキスタンのラホールで、宗教団体「マルカジ・ジャミアット・アハリ・ハディース・パキスタン」の支持者がパキスタンとイランの国境地帯でのイランの攻撃を非難するデモを行った。(ライツマネージド)

 イランの革命防衛隊(IRGC)は、イランに対するテロへの報復として、イラク、シリア、パキスタンの目標に対してミサイル攻撃を行った。これらの攻撃に対して、攻撃を受けた国のみならず、米国とその同盟国は、イランの行為は域内の緊張を高めると非難しているが、これらの攻撃は、昨年12月15日にパキスタン国境に近い警察署がパキスタンに拠点のあるテロリストに襲われた事件、同25日にシリアでIRGCの高官がイスラエルにより暗殺された事件、そして1月3日に「イスラム国」がイラン南部で大規模自爆テロを行った報復である。これらの攻撃はイランの脆弱性を露わにした。

 イランは、他国内の標的を攻撃したことでこれらの国の主権を侵害し、とりわけイランと米国の双方と仲良くしようとしていたイラクとパキスタンを怒らせた。ただし、パキスタンはイランに対してミサイルとドローンによる報復攻撃を行ったが、イラン領内のバルチスタン独立派テロリストを攻撃したのであり、イランとの緊張を緩和したいと述べている。

 恐らく、イラン国内の強硬派が政府の弱腰を突き上げた結果、イランは近隣諸国との友好関係よりも自国の安全保障を優先させることにしたのであろう。イランの戦略は、明らかにイスラエル、米国とその中東の同盟国を罰することを目標としており、イランの外相は、今回の攻撃はその戦略の一環だと言っている。

 従って、今回のミサイル攻撃は、イスラエルと「抵抗の枢軸」(イランとその代理勢力)との間の対立を深刻化すると思われる。同時にこれらの攻撃は、イランがその攻撃能力を、とりわけ米国とイスラエルに対して誇示することが目的だった。

 イランがミサイルとドローンで反撃したことは、敵対勢力に報復する力があることを示したが、同時に近隣諸国にはイランが彼らの主権と利益を平気で踏みにじるのではないかという懸念を生じさせている。イラクとパキスタンに限らず、近隣諸国はイランと米国の双方と良好な関係を維持したいと願っているが、同時に自分達の安全保障と安定を維持したいと思っている。

 恐らくこれらの諸国は、イランの事後的なまたは予防的な攻撃は純粋に防衛目的であり、彼等を脅かすつもりはないというイランの主張は受け入ないであろう。そして、IRGCは、イランの安全保障のためにより攻撃的かつ予防的な攻撃を行うとしており、今回の一連の攻撃は、その手始めだとしている。ということは、このような攻撃が続き、よりエスカレートすると思われ、既に不安定化している域内情勢をより不安にするであろう。

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