2024年12月18日(水)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2024年2月7日

 これまでパキスタンのバルチスタン州とイランのシスタン・バルチスタン州のバルチスタン人の分離主義者は、両国でテロを繰り返しては、国境を越えて追求を免れて来たが、今回、結果的にイランとパキスタンがそろって彼らに鉄槌を下したことになるので、今後はこのようなテロは難しくなるだろう。また、あくまでテロ対策という御旗があるので、今後、イランとパキスタンの間で緊張が一層高まる可能性は低いとは思われる。

 バルチスタン人は、イランとパキスタンの両国に跨がっているが、天然ガスなどの資源が中央政府に搾取されていることなどに不満を募らせ、分離独立運動を続けている。なお、中国のインド洋への進出の拠点として注目されているグワダル港はこのバルチスタン州にあり、バルチスタンの分離独立主義者が度々テロを行っている。

 上記の論考が指摘している通り、気を付けなければならないのは、イランが自国の安全保障をより重視して積極的に近隣国にいる敵対勢力に対する攻撃を積極化させていることであり、特に今回、イスラエルのシリアでの攻撃に対して報復したことである。イランがイスラエルのモサド拠点があるとしてイラクのクルド人地域に対して弾道ミサイル攻撃を行うのは2回目だが、1回目は、イスラエルによるイラン国内のドローン工場攻撃への報復なので性格が異なる。

 これまでシリアで度々イスラエルがIRGC関係者を空爆で殺害して来たことに対してイラン側は自制していたが、去年の12月にIRGCの高官が空爆で暗殺された事で堪忍袋の緒が切れたのであろう。20日には、さらにIRGCの要員がイスラエルの空爆により死亡した旨報じられているが、ライシ・イラン大統領は報復すると発言しており、イランがイスラエルに対して追加的報復を行う可能性が高い。

イランの直接行動はあるのか

 昨年10月以来のガザの衝突についてイランは勇ましい言動を繰り返しているが、現実にはもっぱらヒズボラやフーシ派という代理勢力に対峙させて、自らは一歩身を引いて来た。今回の一連の攻撃はイランの敵対勢力にそのイランの弱腰が見透かされた結果とも言え、イランは自らイスラエル他の敵対勢力と対決する必要があると判断したのかも知れないが、仮にそうであるのならば、事態は一層危険になったと言わざるを得ない。

 ただし、イランはイスラエルを直接射程に収める弾道ミサイルを保有しているが、イランがあからさまにイスラエル本国を攻撃すれば、米軍の大規模な介入を招く危険性がある。イランは米軍との直接対決は避けたいので、イランの報復は引き続きイラク等の第三国のイスラエルの権益に向けられるのではないかと思われる。

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