2024年12月17日(火)

Wedge REPORT

2024年5月21日

誰のためのオーバーツーリズム対策か

 オーバーツーリズムは少なくとも観光客、観光事業者、地域住民の3つの観点から考察しなくてはいけない。筆者は、観光はその地で暮らす住民の便益を中長期的に向上させることを目的とすべきと考えており、それゆえに地域住民の観点が極めて重要と考える。もちろん観光客がどのように評価するかも重要なのだが、地域住民や、地域の観光事業者とその従事者の犠牲の上での観光では意味がないのである。

 その点で2023年10月31日~11月27日に京都市が市内在住の満18歳以上の市民 5500人(無作為抽出)に対して行った「京都観光に関する市民意識調査」の結果は興味深い 。

 「京都市の発展に観光が重要な役割を果たしていると思うか」という質問に対して、とてもそう思う(29.1%)、そう思う(43.6%)で合計71.7%が観光の意義を感じている。一方で、このアンケートでは、回答者の59.9%が普段の生活でほぼ毎日観光客に接し、14.9%が普段の生活で週に数回観光客に接しており、観光客を迷惑に感じている割合が高い。

 例えば、一部の観光地等の混雑による迷惑と感じているのは、とても当てはまる(35.9%)、当てはまる(30.5%)、どちらかというと当てはまる(19.5%)を合計すると85.9%、「観光客のマナー違反による迷惑」の質問に対する上記3分野を合計すると68.8%。

その一方、直接的な経済効果に関しては、売り上げの増加や給与などへの好影響はとても当てはまる(5.3%)、当てはまる(14.9%)、どちらかというと当てはまる(22.4%)で、ポジティブな回答の合計は42.6%に留まる。

 京都は国内でも極めて観光依存度の高い地域であり、観光消費額は1.2兆円(19年)にのぼる。雇用においては、観光による雇用誘発効果の全国平均は就業者の約7%(17年)だが、京都のそれは就業者の20.7%(19年)である。

 京都の地域住民も、観光という産業の意義はわかっているものの、オーバーツーリズムへの懸念は大きいということだ。地域住民という観点からは、京都の観光は健全な状態であるとは言えない。

本当の意味で“被害”を減らすには

 実はオーバーツーリズムの対策は、オーバーツーリズムをどのように定義するかで変わってくる。「観光地にキャパシティ以上の観光客が押し寄せること」という定義であれば、対応策は観光客の制限、平準化、教育、キャパシティの増加などになってくる。

 前述したように京都市は観光客の制限、平準化、教育などを行っている。しかしキャパシティの増加は簡単ではない。

 観光関連事業に関して「給与待遇がよさそうか」という質問に対して、そう思う(0.8%)、ややそう思う(7.2%)と答えたのは8.3%で、あまりそう思わない(31.8%)、思わない(19.3%)は51.2%となっている。仕事として安定してそう、休みをとりやすそうという質問に対してもほぼ同様の回答構成で、観光関連事業は不安定で休みのとりくい分野と認識されている。

 観光客に対応するキャパシティは、対応する人員による。観光事業に対して上記のような認識であれば、観光需要に対応した従業員を採用するのは難しく、受け入れキャパシティの増強は簡単ではない。


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