「値決めは経営である」という京セラの創業者でJALの再生を指揮した稲盛和夫氏の有名な言葉がある。バブル経済崩壊以降長らくデフレが続いた日本で、主にインバウンド顧客を対象に高額な製品・サービスが売れている。
例えば、東京・豊洲に2月に開業した大型商業施設、「豊洲 千客万来」のフードコートにある海鮮料理「江戸辻屋」では江戸辻屋の本マグロ丼6980円で主にインバウンド客に好評だという。同じ「豊洲 千客万来」3階の築地うに虎の「皇帝」という海鮮丼は1万8000円も話題になっている。
残念ながら筆者は「豊洲 千客万来」にはまだ訪問していないのだが、2024年2月のアムステルダム(オランダ)、ジュネーブ(スイス)、ロンドン(英国)、バルセロナ(スペイン)への出張とも比較しながら、日本の価格設定について考えてみたい。
変わった日本と海外の「価格差」
海外から見た価格自体は日本の価格と為替の2点で考えるのだが、確かに日本の諸製品・サービスの価格は筆者が社会に出た1990年代初等からあまり変わっていないものが多い。国際通貨基金(IMF)によれば日本の消費者物価指数は1994年から2023年は1%程度の上昇であるが、米国と英国はどちらも約2倍の上昇である。ちなみに、昨今よく引き合いに出されるタイと中国も1994年から2023年の物価は2倍程度、韓国は同期間に2.2倍上昇している。
為替は実は1990年は1ドル145円前後、2024年1月の平均が148円なのでそこと比べると大きくは変わっていないのだが、2012年代の1ドル80円前後との記憶と比較すると相当の円安と感じられるだろう。ちなみに1994年は1ドル102円だった。
筆者が社会に出た1990年初頭は日本の特に東京は世界でも諸物価の高い年と言われていた。米国の主要都市に出張しても日本より2~3割は安い印象だったことを記憶している。しかしこの30年間、日本の多くの製品・サービスの物価は横ばいで、米国、英国、中国等で物価は倍になり上記のような円安を勘案すると日本の製品・サービスを割安と感じるインバウンド層が増えているのは納得できよう。
イギリスの経済誌「The Economist」がマクドナルドのビッグマックの価格を国別に毎年調査している所謂ビッグマック指数では2024年1月時点で米国を基準にして日本は―46.5%、タイー33.5%、ニュージーランド-12%、スイス+43.5%、英国+0.4%、ユーロ圏+3.1% 。ちなみに最近マクドナルドに行かれていない読者のために補足しておくと、マクドナルドは1990年代後半の激安戦略から2000年代に入って値上げ戦略にシフトしていて2020年に390円だったのが23年に都市価格を導入し、24年1月には新宿では530円と約4年で35%値上げしている。
日本の場合はビッグマック指数は適切な為替指標なのか物価指標なのか微妙な位置づけになっているのかもしれない。2月の欧州出張では、どこで何を買っても、食べても日本と比べると割高と感じた。