アムステルダムのホテル宿泊税が12.5%になったのは観光業界関係者には有名な話で、175€(約2万7600円)の部屋に宿泊すると、21.8€(約3400円)の宿泊税になる。スイスでは特段豪華ではない普通の造りのレストランでランチのチーズフォンデユとスパークリングミネラルウオーターで45€(約7300円)であった。ロンドンのシアターで500ミリリットル(ml) ペットボトルの水は4ポンド(約760円)であり、ヒースロー空港からパディントン駅までのヒースローエクスプレスは所用時間15分で25£(約4800円)であった。
今回は観光ではないので、特別高価な行為はしていないのだが、感覚的には何をするにも日本の倍以上に感じた。欧州からの観光客であれば、日本に観光へ来て、日本の〝築地〟という特別な場で、豪華な海鮮丼が6980円や1万8000円でも全く割高には感じないであろうし、それ以外の地域の富裕層も〝海外との比較感〟でこの海鮮丼を高いとは感じないであろう。
昨年、筆者は観光の調査で、タイ、インドネシア、ニュージーランド等の日本から行くと以前は割安と感じられたはずの地域にも訪問してきたのだが、どの国でも全く割安感はなく、日本と同等かサービスレベルを勘案すると割高とさえ感じることもあった。
利幅を少なくして大量に売るか、少量でも利幅を多く取るか
価格とは、製品やサービスの所有、利用から得られる顧客が〝認知するベネフィット〟と交換に支払う価値の総称と考えらる。故に、顧客がどう認知するかが勝負なのである。インバウンドを顧客に想定するのであれば、対象顧客を明確に想定してその顧客のニーズと価格に対する相場感を知っておく必要があるのだ。
日本はこれまで「良いもの・サービスを安価に提供する」ことが良いことであり、良い戦略であるというパラダイム(考え方)でいたと思われる。確かに、その考えが上手くいっていた時期があった。
日本国内に十分ものが無い時代には、松下幸之助の「水道哲学」(商品を大量に生産・供給することで価格を下げ、人々が水道の水のように容易に商品を手に入れられる社会を目指すこと)は有効であり、物的資源や人的資源が豊富に提供できる前提では「良い製品やサービスを安価に提供」はやり方次第では持続可能であったが、物的資源に制約があり、人口減少社会である日本においてはそのパラダイムを変える必要があるだろう。
インバウンドが高額商品を購入することは日本のパラダイムを変えるきっかけにもなりうるのだ。今後は顧客の認知する便益・品質と価格を一致させ、低価格の場合には双方の便益・品質で提供し、一方で顧客の認知する便益・品質を高めてより高価格で提供する工夫をするようにパラダイムと行動を変えてゆく必要があるだろう。
実は先述の稲盛氏も「値決めにあたっては、利幅を少なくして大量に売るのか、それとも少量であっても利幅を多く取るのか、その価格設定は無段階でいくらでもあると言えます。(中略)自分の製品の価値を正確に認識した上で、量と利幅との積が極大値になる一点を求めることです。その点はまた、お客様にとっても京セラにとっても、共にハッピーである値でなければなりません。この一点を求めて値決めは熟慮を重ねて行われなければならないのです」と述べている (稲盛和夫 OFFICIAL SITE)。