2022年10月7日(金)

経済の常識 VS 政策の非常識

2013年12月5日

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原田 泰 (はらだ・ゆたか)

名古屋商科大学ビジネススクール教授

1974年東京大学農学部卒業、博士(経済学)。経済企画庁、大和総研チーフエコノミスト、早稲田大学特任教授などを経て、2015年から日本銀行政策委員会審議委員を5年間務めた。20年4月より現職。『なぜ日本経済はうまくいかないのか』(新潮選書)など著書多数。
 

新製品がなければ貧しくなる

 第2の理由は、交易条件が低下することである。交易条件とは輸出価格を輸入価格で割ったものである。交易条件が低下するとは、同じ車を作っても、それで得られる原油が少なくなるということである。これは現実に起きている。1990年に原油および粗油の輸入数量は2億2525万キロリットル、輸入額は4.5兆円だったが、2012年にはそれぞれ2億1302万キロリットル、12.2兆円になっている。一方、乗用車の輸出は、1990年で486万台、6.0兆円、2012年では504万台、7.8兆円である。同じ1万キロリットルの原油・粗油を輸入するために、1990年では乗用車0.16台輸出すれば良かったのに、2012年では0.37台輸出しなければならなくなった。電子部品で見るとこの関係はもっと極端である。日本の輸出しているICの価格は1990年で一個151円だったが、2012年では39円になっている。1万キロリットルの原油・粗油を輸入するために、1990年ではIC1320個で良かったのだが、2012年では14890個輸出しなければならなくなった(以上の数字は財務省「貿易統計」より計算)。

 同じものを作っていれば、それと同じものをさらに安く作る国が現れる。日本自体が、そういう国であった。車も家電製品の多くも、日本が初めて作った訳ではない。新しい製品を作って、交易条件の低下に対抗する必要がある。

成長のためには輸出が必要

 成長が嫌いな人は輸出も嫌いな人が多いので、成長との関連でなぜ輸出が必要かも説明しておきたい。画期的な新製品が生まれなければ成長はできないと論ずる人が多いが、画期的な新製品は初期には経済に占めるシェアが小さい。小さなシェアのものが高い成長を遂げても、全体の成長に与える影響は小さい。やがて新製品のシェアが高まるが、今度は価格を下げないと売れなくなる。価格を下げれば売り上げは大して伸びない。そうすると、やはり経済全体に占めるシェアの小さいものがいくら成長しても、経済全体は大して成長しないということになる。

 輸出は、需要の飽和という問題を回避する一つの方法である。テレビもコンピュータも、ある程度普及してしまえば、価格を下げて一人2台、一家に3台というようにするしかない。しかし、輸出は需要の飽和していない世界に売るのだから、価格の低下という問題を回避できる。もちろん、新興国に売れば、所得の低い人々に売るためには価格を下げなければならないというジレンマが生まれるが、豊かな国に売っている間はこのジレンマから免れる。

 効率を上げ、新製品を開発し、成長するために、一番重要なのは競争があることだ。競争や成長を嫌っては、今の豊かさも守れない。
 

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