2024年6月27日(木)

BBC News

2024年6月18日

ギリシャの沿岸警備隊が地中海で、3年間にわたり40人以上の移民を死に至らせたと、複数の目撃者がBBCに証言した。うち9人については、意図的に海に放り出したとしている。

BBCの分析では、これらの移民はギリシャの島々に到達した後、同国の領海外に追い出されたり、海に連れ戻されたりして死亡したとみられる。

ギリシャ沿岸警備隊は、すべての違法行為の告発について強く否定するとコメントした。

BBCが沿岸警備隊の元幹部職員に対し、12人が同隊の小型船に乗せられ、その後にゴムボートに移されて置き去りにされる映像を見せたところ、この元幹部は「明らかに違法」、「国際犯罪」だと言った。

ギリシャ政府は長年、トルコから渡って来た人々を同国に押し戻し、国際法に違法していると非難されている。

浮かび上がるパターン

BBCは今回、2020年5月からの3年間に発生し、43人が死亡した15事案を分析した。一次情報は主に、現地メディア、NGO、トルコ沿岸警備から得た。

目撃者らの証言を検証するのは極めて難しい。目撃者が姿を消したり、恐怖で口をつぐんだりすることが珍しくないからだ。

しかし、BBCは4事案に関して目撃証言を裏付けることができた。その結果、明確なパターンが浮かび上がった。

その中でも特にぞっとするような内容を証言したのは、2021年9月にギリシャ・サモス島に上陸したというカメルーン人男性だった。今回取材したすべての人々と同様、この男性もギリシャで亡命申請をするつもりだったと話した。

男性によると、乗っていた船が同島に着岸した直後、警官らが背後から現れた。「黒い服の警官が2人、私服が3人いた。みんなマスクをし、目しか見えなかった」。男性は他の2人(カメルーン人、コートジボワール人)とともに、沿岸警備艇に移されたという。

「最初はそのカメルーン人だった。(当局者らは)彼を海中に放り込んだ。コートジボワール人は『助けて、死にたくない』と言っていた。(中略)やがて海面の上に出ているのは彼の手だけになった」

「その手もゆっくり沈んでいき、やがて海水が彼を飲み込んだ」

証言した男性は、当局者らに殴られたと振り返った。「頭を一気に何度も殴られた。まるで動物を殴っているようだった」。

それから、男性も海に放り出されたという。救命胴衣は着けていなかったが、岸に泳ぎ着くことができた。一緒だった2人(シディ・ケイタさん、ディディエ・マルシャル・クアモウ・ナナさん)は、遺体となってトルコの海岸線で収容された。

男性の弁護団は現在、2人に対する殺人事件として捜査を開始するようギリシャ当局に求めている。

「両手縛られ海に落とされた」

ソマリア出身の男性は、2021年3月にヒオス島に到着したところをギリシャ軍に捕まり、沿岸警備隊に引き渡されたとBBCに話した。

男性は沿岸警備隊に両手を後ろ手に縛られ、海に落とされたという。

「(隊員らは)私を結束バンドで縛り、海の中に放り出した。私の死を望んでいた」

男性はあおむけに浮かび、縛られた手をどうにか解いて生き延びた。当時は波が高く、一緒にいた3人が死んだ。男性は海岸でトルコの沿岸警備隊に発見されたという。

BBCが今回分析した中で、最も犠牲者が多かったのは2022年9月の事案だった。移民85人を乗せた小型船が、ギリシャ・ロードス島付近でモーターの故障に見舞われた。

シリア出身のモハメドさんの証言では、移民らがギリシャの沿岸警備隊に救助を要請したところ、同隊は移民らを別の小型船に乗り移させてトルコの海域まで戻し、そこでいくつかの救命ボートに分乗させたという。モハメドさんと家族が乗ったボートは、バルブがきちんと閉まっていなかったという。

「すぐに沈み始めた。あの人たち(沿岸警備隊員ら)はそれを見ていた。(中略)私たちが叫び声を上げるのを聞いていた。それでも私たちを置き去りにした」とモハメドさんはBBCに話した。

「最初に死んだ子どもは、私のいとこの息子だった。(中略)それから1人、また1人と姿が見えなくなった。いとこも消えた。朝までに7、8人の子どもが死んだ」

「私の子どもたちは朝まで生きていた。(中略)トルコの沿岸警備隊が到着する直前に死んだ」

ギリシャの法律では、亡命を求めるすべての移民に、特別登録センターでの登録を認めている。しかし、移民支援団体「コンソリデイテッド・レスキュー・グループ」の協力でBBCが取材した人たちは、センターに行く前に拘束されたと話した。制服を着用せず、覆面をした人たちがひそかに水際で活動しているという。

人権団体などは、欧州諸国への亡命を望む何千人もが、ギリシャからトルコに不法に押し戻されているとしている。そのため、国際法や欧州連合(EU)法が定める、亡命を求める権利が否定されていると主張している。

「明らかに違法だ」と元幹部

オーストリアの活動家ファヤド・ムラさんは昨春、移民が強制的に戻される様子をギリシャ・レスボス島で撮影。米紙ニューヨーク・タイムズが昨年5月、その映像を掲載

映像では、女性や赤ちゃんを含む一団がバンの荷台から降ろされ、桟橋を歩いて小型船へと乗り込んだ。その後、海岸から離れたところでギリシャ沿岸警備隊の船に乗せられ、沖へと運ばれた。そこでゴムボートに移され、漂流させられた。のちにトルコ沿岸警備隊に救助されたという。

BBCはこの映像が本物だと検証したうえで、ギリシャ沿岸警備隊・特別作戦部のディミトリス・バルタコス元部長に見せた。

ギリシャ沿岸警備隊が違法行為を求められる事態などあり得ないと話していていた元部長は、動画の内容について推測することを拒否した。

しかしBBCの取材に英語で答える合間の休憩中、ギリシャ語で誰かに次のように話しているのが録音された。

「私は(BBCに)あまり話していないだろう? はたから見れば、とてもはっきりしてるじゃないか。核物理学じゃあるまいし。彼らがどうしてこんなことを、白昼堂々とやったのか分からない。明らかに違法だ。国際犯罪だ」

ギリシャの海事・島嶼(とうしょ)政策省は、この映像について、独立機関が調査中だとBBCに説明した。

政府が指示との情報も

サモス島を拠点とする調査報道ジャーナリスト、ロミー・ヴァン・バーセンさんは、出会い系アプリ「ティンダー」で知り合ったギリシャ特殊部隊員から、難民船を見つけた場合は「追い返す」よう「大臣から」命じられていると聞いた、とBBCに話した。この隊員は、船を止められなかった処罰されるとも説明したという。

ギリシャは一貫して、いわゆる「押し戻し」はしていないと主張している。

多くの移民にとって、ギリシャはヨーロッパへの入り口となっている。昨年、ヨーロッパに海路で到着した移民は26万3048人で、そのうちギリシャに着いたのは4万1561人(16%)だった。

トルコは2016年、移民や難民がギリシャに渡るのを止めるための協定をEUと結んだ。しかし2020年になって、実施できなくなったと表明した。

ギリシャ沿岸警備隊はBBCの取材に、隊員らは「最高のプロ意識、強い責任感、人命と基本的権利への尊重とともに、休むことなく働いている」と強調。「ギリシャの国際的な義務を完全に順守している」と付け加えた。

また、「ギリシャの沿岸警備隊は2015年から2024年までに、6161件の海難事故で25万834人の難民・移民を救助した。この崇高な任務の、非の打ちどころのない遂行は、国際社会から正当に認められている」とした。

BBCの今回の報道を受け、ギリシャの主要野党は政府に調査を要求している。

政府の報道官は、BBCの主張は証明されていないと主張。同時に、問題とされるすべての指摘について確認の上、結論を出すと強調した。

(英語記事 Greek coastguard threw migrants overboard to their deaths, witnesses sayGreek opposition urges investigation after BBC migrant deaths report

提供元:https://www.bbc.com/japanese/articles/cydd0r936zyo


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