人気ロックバンド、Mrs. GREEN APPLEの新曲『コロンブス』のミュージックビデオが炎上した。メンバー3人がコロンブスやナポレオン、ベートーベンとみられる面々に扮(ふん)し、類人猿と思しき姿の集団の家に勝手に上がり込み、乗馬や楽器の演奏方法を教えたりする場面が人種差別であり、植民地支配を肯定するものであるとしてSNSなどで問題視され、ついには配信停止にまで追い込まれたのである。
コロンブスといえば一昔前までは、世界の伝記シリーズには必ずその名前があり、欧米ではそこここに銅像の立つ偉人だった。今日でも米国では10月の第2月曜日を、コロンブスの日として連邦の祝日にしている。
コロンブスの航海に端を発するヨーロッパ人のアメリカ大陸植民地から建国した米国は、建国当初からコロンブスの日を祝ってきた。建国間もない1792年には既にコロンブスのアメリカ到達300年を記念してコロンブスの日を祝った記録がある。
その後、造られた首都ワシントンは、コロンブスの名をとってコロンビア特別区と呼ばれた。ニューヨークのマンハッタンにあるコロンバスサークルは今日でも市民の憩いの場である。
変わっていったコロンブスの評価
その後もコロンブスの顕彰は彼がジェノヴァ出身であることから、イタリア系移民が中心となって進められてきた。イタリア系の住民の多い都市では、毎年コロンブスの日にパレードが行われた。
イタリア人を敵性外国人と呼ぶのを止めようというルーズベルト大統領の宣言も1942年のコロンブスの日になされている。68年にはコロンブスの日を連邦の祝日とする法案が通過し、71年から施行され、その法律は現在も有効である。
ところが20世紀終わりにかけて、風向きは大きく変わっていった。ポストコロニアリズムの潮流とともにコロンブスに対する見方も急速に変化していったのである。
コロンブスはアメリカを「発見」した偉人などではなく、既に先住民が暮らしている地に破壊と殺戮をもたらした張本人だという見解が有力になったのである。実際にコロンブスは、先住民を奴隷化し新大陸を収奪した。コロンブスをはじめとするヨーロッパ人の到来によって持ち込まれた感染症に新大陸の人々は免疫がなく、奴隷労働などと相まってその人口は激減した。