2024年6月21日(金)

Wedge REPORT

2024年6月12日

 みちのくあじさい園(岩手県一関市)に足を踏み入れると、そのスケールに圧倒される。緩やかな斜面にカラフルなアジサイの花が広がる。なかには背丈以上のアジサイもあって、花の中に分け入るようなファンタジックな感覚にとらわれる。なにしろ約15ヘクタール(ha)の山野に約400種4万株のアジサイが植えられており、その散策路は2キロメートルを超えるのだ。

15ヘクタールの山林に色鮮やかなアジサイが咲き誇る岩手県のみちのくあじさい園。ここから見える林業経営の未来像とは(山梨勝弘/アフロ)

 アジサイの名所は全国にあるだろう。ただ、みちのくあじさい園は、公園でも庭園でも寺社の境内でもない。民間経営であり、園主は林業家なのだ。実際にアジサイの多くは、約60年生のスギ木立の林床に敷きつめられたように広がっている。

 山林所有者であり園主の伊藤達朗さんは、約50haの山林を所有し、篤林家として知られる。農林水産省に「地域林業を先導する中核的な存在」である指導林家に指定されたほか、国土緑化推進機構認定の「森の名手・名人」にも選ばれた。一関地方森林組合の組合長も勤めたこともある。

 だが40年ほど前から林内でアジサイを育て始め、今ではアジサイ栽培でも有名になった。付け加えればアジサイ起業家と言えるかもしれない。

 なぜ林業家がアジサイなのか。その点を考えると、個人の事業展開に収まらず、いかに林業を成り立たせるかという森林経営の根幹に行き着く。

個人の楽しみから“中心事業”へ

 まず伊藤さんの歩みを追おう。最初は自分の山の景色を賑やかにしようというプライベートな楽しみだったという。

 アジサイは林内の日照でも育つし、湿度のあるスギ林の土質とも合っていた。成長力が強いから、上部のスギを伐採した際に木に潰されても、すぐ回復する。そう思って植え始めた。

 さまざまな品種のアジサイを植えたが、とくに日本あじさい協会初代会長・山本武臣さん(故人)と懇意になってからはヤマアジサイのさまざまな苗を分けてもらえた。おかげで全国一の品揃えとなる。

スギ木立の中に広がるアジサイ(筆者撮影、以下同)

 観光花園にしたのは、口コミで「アジサイの名所」として知られ、毎年花の季節に人が大勢訪ねて来るようになったからだ。勝手に森に入られると危険なので、一部を「みちのくあじさい園」として整備した。

 アジサイの咲き誇るこの時期に地域の観光スポットとして開園する。今年の開園期間は、6月25日~7月25日で、入園料は高校生以上が6月25日~7月5日は1000円、7月6日~25日は1300円、小中学生が全期間200円、未就学児無料としている。

 入園料をいただく代わりに駐車場やトイレ、休憩所なども設けたのである。散策路もつくり、足の弱い人向きのカートも用意した。


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