日本でも古くから行われていた「多角的経営」
実は日本も歴史的によく似た経営をしていた。森林経営を行う事業家は、これまで酒や味噌醤油など醸造業者が多かった。現代でも製材加工や土木建設などの事業を組み合わせるケースも少なくない。ほかにもキノコ栽培や、不動産事業、ガソリンスタンド、スーパーマーケット、なかにはアパレルや温泉の経営を展開するところもある。
観光事業も森林利用では大きなカテゴリーだ。たとえばキャンプ場経営やアウトドアパークも行える。樹上アスレチックを行う「フォレストアドベンチャー」などは、すでに全国に50以上生まれている。アジサイなどの花園も、そうした一つだと言えるだろう。
林業の多角経営という点で見本となるのは、島根県の田部家である。約600年前からたたら製鉄を行ってきて、莫大な山林を所有する山林王として知られた。戦後は、ケンタッキーフライドチキンのフランチャイズやテレビ局、新聞社、住宅建設などの事業にも進出した。
一方で林業は縮小気味だったが、現在でも田部グループ会社全体で約5000haの山林を所有する。そこで近年になって、新たな展開を模索している。
まずたたら製鉄を復活させてブランドイメージを高めるとともに、フォレストアドベンチャー施設をオープンさせた。さらに森の養鶏、地元食材のスイーツづくり、炭塗料生産……と新規事業を広げている。林業部門も所有山林だけでなく、他者所有の山林管理や街路樹や公園木などの維持管理・伐採も請け負う。
「林業は祖業だから諦めない」と第25代目田部長左衛門氏はいう。ただ、木材生産だけにこだわらない。中期・短期の収益を見込める事業を多角的に展開しつつ、これらを組み合わせて長期の森林経営を成り立たせる体制づくりを進めたのだ。
一見、黒字部門の利益を山に費やすように聞こえるかもしれない。しかし、森を所有する価値は有形無形にある。今後は排出権取引も収入の柱に見込めるかもしれない。
森林経営には、そうした幅広い視点が必要である。むしろ木材から離れたところに森林経営の勝機があるだろう。