2024年7月22日(月)

Wedge REPORT

2024年6月12日

 客を呼び込むための工夫も凝らしている。毎年新コーナーをつくるが、最近では色とりどりの5000輪のアジサイの花を浮かべた「あじさい池」を林内に設けた。インスタ映え間違いなしのスポットとなって若者に人気だ。またアジサイだけでなく5月から開花するシャクナゲの栽培も始めた。

観光だけではない産業も創出

 花の集客力と経済効果は大きい。1、2カ月の花のシーズンに数万人が訪れるのだ。入園料だけでなく、園内の喫茶軽食代や土産物販売などの収入も少なくない。

 観光だけではなかった。8月から10月はアジサイの花を摘み取って出荷する。これは花に油性の薬品を浸透させて長期間保てるプリザーブドフラワーの素材に重宝される。

8月以降、アジサイの花は摘み取られて出荷される

 触ると柔らかく、生きた花そっくりだが、水を与える必要はない。フラワーアレンジメントや花束、リースに人気の品なのである。

 これまでアジサイのプリザーブドフラワー素材は、米国から輸入されていた。国内で安定的に供給できるところがなかったのだ。だが、みちのくあじさい園は大量供給が可能であり、咲き終わった花を使うから、観光シーズンと重ならずに花を摘み取れる。

 伊藤さんは、花を出荷するだけでなく、自らプリザーブドフラワーの生産にも乗り出した。大学や岩手県などと連携しつつ生産技術を研究し、加工施設を設けた。近隣農家にもアジサイ栽培を勧めて買い取ることで、新たな雇用を生み出している。

厳しい木材だけの林業経営

 昨今は、森林経営の困難さが話題になる。なにしろ林業の“商品”である木材を収穫するには、スギで最低40年、通常は60年以上かかる。しかし人間社会は、生き馬の目を抜くように進行し、いつ、どんな商品が、いくらで売れるか……を予測するのは難しい。樹木の時間は人の時間と合わないのだ。

 そこで林野庁などは20~30年で収穫が可能なセンダンやコウヨウザン、チャンモドキなどの早生樹を植えることや、スギでも生長の早いエリートツリーと呼ぶ品種づくりなどを推進する。しかし、それでも数十年かかり、またそうした木の材質が需要に合うのかどうかという不安もあって、林業家はあまり乗り気ではない。

 だが木材だけが商品ではない。林業とは森林空間を経済の土俵に乗せる産業と考えれば、さまざまな事業が考えられる。商品を木材だけと決めつける必要もない。さまざまな商品を組み合わせてもよいのだ。いわば投資と同じで、長期的な事業と中期、短期の事業を合わせてポートフォリオを組むことで、全体の収益を安定的に上げる経営である。

 実際に米国の森林経営は、多くを大手のファンドが手がける。木材生産を長期安定収益事業と捉えて、ほかの金融商品と抱き合わせているのだ。


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