クマによる被害を出さないために、短期的あるいは長期的にはどのような対策があるのだろうか。そもそも、熊だけが悪者なのだろうか。2023年12月15日に掲載した『相次ぐクマ被害に今からできること』を再掲する。
2023年は、クマによる人身被害が4~11月の合計で200件超と、例年の2倍以上になっていた。また、12月に入って、本来は冬眠に入るはずのクマが依然として出没し、目撃のみにとどまらず被害も続いている。
上旬には、相模原市の樹林に設置したシカ、イノシシ用のワナにクマが掛かり、暴れたため結局「殺処分した」と報じられている。地球温暖化でクマがそのまま越冬できるようになり、今後は(冬眠しない)「穴持たずクマ」も出るだろうとの観測も流れている。
このところのクマ被害発生の背景、原因、そして、短期、中期、長期の対策を探ってみよう。
世間で取り沙汰されるクマ対策の誤解
秋田県のケースでは、捕獲したクマについて「県の管理計画」に基づき駆除したところ、役場などに1500を超えるメールや電話が殺到した。「逃がしてほしい」「子グマの駆除はかわいそう」「なぜ殺した」などの抗議が多数だったらしい。
《生かして山に戻すべきだった》というのだろうが、賢明な判断か。著名な登山家に言わせると、「クマが人里に現れて農地や家庭の食物をあさり、ときに人畜を襲う。これに味をしめたクマは、捕獲して山に戻しても必ず再び里に現れる」そうだ。
人里の経験のないクマには、「里や人間は怖いもので近づいてはいけない」と知らしめ、ひとたび捕獲したクマは、殺処分して肉、毛皮、漢方薬原料に有効利用するのが正しい方向だ。感情論では問題は解決しない。生態系への影響など、かえって《より悪い状態をもたらす》ことにもなる。
また、「森のドングリが不作だからクマが人里に現れて食料を探す。それでは、ドングリを集めてクマの住む森に運んで、人里には現れないようにする」という運動があったと聞くが、これはとんでもない生態系破壊の「逆行」である。
森に住むクマは、かつては天敵であるニホンオオカミの存在、そして、今ではドングリなど木の実の豊作・不作で生息数がコントロールされてきた。この秩序を人為的に操作してしまえば、森林、野生生物、人間などの食物連鎖・生態系を乱すことになってしまう。
本来、生物は、環境とかかわりを持ちながら一定の生態系のバランスの下にすみ分けている。それは、肉食獣、草食動物、雑食動物、森林の植物など全体バランスに関わるものである。環境団体も、いまでは「ドングリ運び」活動をしていないと伝えられるし、環境省も勧めていないと聞く。