「職人がいなくて現場がまわらない」。昨今、建築現場では常にそんな声が聞こえている。長時間労働が法的に規制される2024年問題のただなかで、人手不足が止まることはない。
塗装業界もそのひとつだ。時間をかけて技を習得する必要があるが、待遇が良くない、収入が安定しないなどの理由から離職率が高く、職人の高齢化が進んでいる。
人手不足対策として、塗装を要しない内外装材が多様に開発されているが、だからこそ「塗って表現し、塗り直して長く使える」という塗装の強みが見直されてもいる。そして実際の仕事はクリエイティブであり、サスティナブルでもある。可能性も魅力も奥深い塗装業について取材した。
単調で過酷な労働とはかけ離れた塗装現場
新築住宅のキッチン部分を黙々と塗装する鈴木拓海さん(27歳)は、柏木建装の社員として塗装の仕事に従事する。「仕事は楽しいです。技術の指導は、要点だけしか伝えられないから試行錯誤ですけど」
かつて俳優を目指しながら絵を描いていたという彼は、そのセンスを現場で発揮する。自分で作業のロジックを組み立てていき、理解したことをアウトプットするのは難しくて、楽しい。
どうしたらもっとうまくできるんだろう、どんな理屈があるんだろう、と手も頭も動かす日々だ。もっとも嬉しいのは「現場でお施主さん(工事の発注者)から声をかけてもらう時」だという。人から喜ばれている実感は、何よりの励みになる。
塗装の仕事に打ち込んでいる彼の姿を見ていると、「職人不足」という言葉から想像する単調で過酷な労働のイメージとはかけ離れている。人から喜ばれる実感が励みとなる場面があり、モチベーションを高めながら将来の自分を楽しみに続けて、未来を照らす明るさを放っているようだ。