2024年12月22日(日)

Wedge2023年9月号特集(きしむ日本の建設業)

2023年8月21日

Case 1
地場ゼネコン
ハザマ・エンジニアリング(東京都世田谷区)
木村智成 社長(47歳)
同社は、ゼネコンの中小企業版ともいえる総合建設工事会社だ。

 海外パビリオンの建設遅れで、大阪・関西万博の開催(2025年)を危ぶむ声が増えてきた。関係者からすれば悩ましい問題だが、建設の側からすると「チャンス」だとも思える。それくらい、建設現場には、人材も、工期も、予算も足りていない。そのことを多くの人に知ってもらう機会になるかもしれない。

多くの資料に目を通して業界の動向をウオッチする木村社長(WEDGE)

 24年から残業規制が強化される。施行まで5年の猶予があったのに、何をしていたのか、という批判もある。しかし、人材は簡単に見つかるものではない。そもそも、残業規制で罰則を与えても、建設業特有の構造問題を解決することはできない。

 建設現場は天候によって仕事の進捗が左右される。雨が降って工事ができなかった分、工期に合わせるために深夜、休日に作業をするのは当たり前だ。夏場の猛暑日になると、ニュースで「外出を控えてください」と呼びかけるが、「今日は気温が35度なので、現場は休みです」なんてことはありえない。

 人手不足の状況で何が起きているのかといえば、現場の専任が求められる主任技術者や監理技術者のような技術者の〝取り合い〟だ。人材派遣会社が、技術者に誘いをかけ、転職先を斡旋するということが増えている。しかも、転職するほど手数料収入が得られるため、一度転職した技術者に再度誘いをかけることもあると聞く。それによって、人材派遣会社が潤っている。やるせない気持ちでいっぱいだ。

 それだけではない。建設業は、製造業のように屋内、しかもラインで管理することもできない。建設現場は毎回つくる人も物も場所も異なる〝一品産業〟であり、臨機応変に対応しなければならない。そのような現場に他産業と同じく一律に残業規制をかけることには無理があるのではないか。

 もちろん、長年の業界慣行の影響もあり、われわれの側が変わらなければならない点もある。単純に労働時間が減ると収入も減るから嫌だという人は多い。また、中高年になった技能者(職人)の中には「今さらサラリーマン(雇われ)になるのは嫌だ」「雇われになると手取りが減る」というイメージを持つ人もいる。

 しかし、事業継続を重視する経営者であれば、今の人手不足の状況では技能者を社員化したいと思うはずだ。当社でも、元々一人親方だった40代の多能工を正社員として採用した。本人も確定申告の手間が省けるなど、負担が減ったと話している。公共事業では、「現場代理人(経営者の代理としての工事現場の責任者)」を配置することが必須であり、それは正社員にしか認められていない。そういった点でも会社にとってプラスになっている。


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