一級建築士になるには
3年とクルマ1台分の費用
建設業界の最大の問題は、人手不足とそれに伴う人材の高齢化だ。これを解決するには「報酬」と「社会的地位」の向上が必要だ。技能者の報酬であれば平均が400万円台半ばなので、最低でも倍の800万円台くらいにすべきだろう。社会的地位という点では、知財への対価だ。弁護士や医師に相談すれば費用が発生する。多くの人は、それを当然だと思っている。ところが、「自宅に不具合があるから見てほしい」と連絡を受けた一級建築士が、お宅を訪問して原因を説明しても何の報酬も発生しない。それは、一級建築士という資格への認知が低いからだ。
私事で恐縮だが、私も一級建築士の資格を持っている。資格試験に合格するためには、独学では難しいため、当時は専門学校に通った。合格までの費用は普通自動車1台分くらいかかった。もちろん働きながらだ。私の場合、3年間日曜日(土曜は仕事)は朝8時から夜8時まで勉強した。家族の理解も得なければならない。
技能者の熟練にも時間がかかる。「多重下請け構造」と呼ばれるように、建設現場には複数の技能者が関わる。それは、高度経済成長期以降、技能が高度化、専門化してきた結果でもある。ところが、昨今の技能者不足も影響して、一人の技能者に求められる能力が増えている。技能者の多能工化に向けた再教育の支援を行政には求めたい。
最後に行きつくところは教育だ。「エリート教育」の名の下、子どもの頃から塾通いをして、少しでも良い学校に入ろうとする。皆、「仕組みをつくる側」になりたいのだ。だが、仕組みがあったところで、「手を動かす」人がいなければ、仕組みは機能しない。
かつての上司だったゼネコンの幹部に窮状を訴えると、こんな答えが返ってきた。
「建設業界も銀行と同じにならなくちゃダメだな。窓口が開いているのは9時〜15時。建設現場で稼働するのもその6時間(なぜなら、現場作業の準備に1時間程度かかるし、現場作業が終わった後は、片付けや重機・車両の回送に時間がかかるから)。おまけに夏場の酷暑の時期は休業。このくらいしないと人なんて集まらないよ」
サブコン
ホーセック(京都市伏見区)
毛利正幸 社長(45歳)
同社は、ダクト(空調)などの設備を担うサブコンストラクション。通称「サブコン」。
先日、大手ゼネコンとの会合に参加した。議題の一つは「残業規制をどう乗り越えるのか?」。ゼネコンだけでは答えが出せないので、下請けにも知恵を求めたわけだが、妙案はない。「そもそも、『4週8休』と言いながら、土曜日に現場が開いたままだ。まずは、これを実現します」という答えがやっとだった。
休みが増える。つまり工期が延びる。でも、作業員の月給は下げられない。コストが上がる。では、そのコスト負担を誰がするべきか? もちろん、本来は発注者側だ。例えば、マンションであれば、一般消費者もコストアップを容認しなければならない。
しかし、残念ながら、実際に下請け業者の受注金額がアップしたとしても、従業員の給与にすぐに反映することができない企業が少なくないはずだ。現場対応に追われ、自分たちの原価計算をしたことがない、適切に原価管理をする時間がなく、できないからだ。最近は、作業員単価が上がってきたとはいえ、例えば「2万5000円/日」という固定化した報酬しか頭になく、技量や能力による単価の差がない。そもそも、100%(週40時間)以上の作業員の稼働に対する残業代25%割増という考えもできない企業が多い。
現場の朝礼が8時だったとしても、制限された現場の駐車場にクルマを確実に止めるためには早く行くしかない。6時台には現場に到着しなければならないこともある。でも、これが残業代にカウントされることはほとんどない。特に地方では現場が遠いために発生している問題だ。
建設キャリアアップシステム(CCUS)がつくられて、技能者の経験、スキルレベルが登録できるようになった。しかし、それが技能者の報酬に反映されていないのが現状だ。そもそも、現場に出た際にCCUSカード(顔認証式もある)を読み取るわけだが、「出面(=職人の出勤日数)」を管理するだけでは不十分だ。例えば、一つの作業を20日で仕上げるレベル2の職人と、10日で仕上げるレベル4の職人がいたとする。1日の単価が同じであれば、20日で仕上げた方が収入が多くなってしまう。作業結果は同じなのに、レベルが高い職人ほど、恩恵を受けられない結果となる。自分が所属する会社が工事を請け負った場合、この恩恵は自分の会社に残るが、1日単価で作業している一人親方の場合、このレベルの高さで生まれる生産性の恩恵は、すべて発注者のものになってしまう。