2024年6月19日(水)

知られざる現場、知られざる仕事

2024年6月10日

 日本では塗装業は力仕事の一部、あるいはマニュアル通りの単純労働だと見なされがちだが、やり方一つで結露やカビ、サビを防ぐことで建物の耐用年数を左右する。耐熱や遮熱、害虫対策、消臭や光の入り方など生活や仕事をする上での快適さも変わる。柏木建装の柏木太一社長(48歳)は「使い手の暮らしを想像できると、踏み込んだ提案ができるようになります」と語る。

経営マインドを持つ職人の必要性

 柏木さんは中学卒業後、塗装工の仕事を始めた。父親がフレンチの料理人で、手に職をつけて客と対話をしながら技を提供する仕事がしたいと思っていた。

現場の職人にも経営マインドの必要性を語る柏木さん

 若い頃はやんちゃでやる気がなかったが、「どうしたらお客さんのためになるだろう」と考えながらお客さんと話しているうちに、だんだん塗装の仕事にのめり込んでいったという。住宅、商業施設、建築家がこだわりを持った特殊な内装などさまざまな仕事を手掛けながら、業界の常識に疑問を持ち続けた。

 「『これをいくらでやって』と言われた通りに目の前の仕事をこなす方が楽だが、それは人材のパズルにたまたま自分が入るだけ。責任も未来もない。ただ、自分で考えるようになると『こういう現場があるのだけれど、見てくれる?』と設計者から塗装についての提案を乞われる存在になります。

 お客さんがご年配の場合、環境負荷の高い場合、投資目的の不動産物件の場合など、ニーズや予算、目的と耐用年数の見合いなどあらゆる面からその現場の最適解を見出す必要がありますから頭を使いますね。そうしたゼロ時点から関われると、俄然ヤル気が出ますし、景気や社会情勢に振り回されなくなります」

塗装は、顧客のニーズに応える気づかいと技術が求められる

 彼は塗装の技術を学ぶと同時に経営について勉強することの大事さも強調する。どういう風に仕事をもらい、どう経費がかかるか、など独立に必要なノウハウは、本来は技術と両輪で必要な知識だという。

 そうして頭を使って仕事を続け、塗装工程や人材の工面などを総合的にプロデュースできるようになるまでに25年の月日を要した。若手の職人たちには、中卒でもこうした仕事ができるのだと、自らの生き方をもって示したいという。

 自分の会社の経営を守りながら、外部の職人とも連携して塗装工の給料が安定するよう配慮する。業界全体のステップアップが生き残りに必要だと気付いたからこその立ち回りだ。

 業界の一般的な勤務時間は休憩2時間を入れて基本8時~18時だが、融通の利く現場であれば5時~15時など希望に応じてずらしている。塗装業の難しさは、外装は雨だと仕事ができなくなり、給料が出ず、予定も立たないこと。それで内装メインで請け負うことにした。外装は後輩のフリーランスにお願いし、雨の時は彼らの仕事に穴が開かないよう内装の仕事も手伝ってもらう工夫を施した。

 業界の常識をそのまま踏襲していては自分も業界の未来もひらけない。そんな危機感から、職人としてのマインドに加えて経営マインドも持つようになったという。


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