日本が変わり、塗装業界も変わり、街並みも変わる
建築家の内山さんによると、建築現場ではプロの職人に意見をもらうことが多いそうだ。塗装には主に色味・質感・艶という3つの要素あり、その組み合わせでいろいろな表情を生み出すことができる。たとえば「ここを艶消しで塗りたい。テカテカしたくないんです」という要望があった時に、その現場に最適な塗料が提示できるのは現場で豊富な経験を持つ塗装工となる。
さらには「本当に艶消しにしちゃいますか? ここは艶消しだと傷むかもしれません」「水のかかるところなので油性塗料にする必要があり、でも油性だと艶が出やすいんですよね。どの程度までテカテカが許容されますかね」など、一筋縄ではいかないことを工夫して進めていく話し合いが生まれることもある。
「発注側の言いなりではなく、他の職能の人には気がつけないことに気付いてサジェスチョンできる職人さんは、そうして現場で必要とされるようになる。彼らの経験を、塗る技術だけでなく、知見も含めてフルで使うことで、お互いより良いものがつくれますから」と内山さんは話す。
近年、日本ではDIYを好む動きが広がり、塗装もぐっと身近になった。これは日本における塗装文化の発展を促すかもしれない。
自分で塗るのは楽しく、また手を動かすことで職人さんの技術を身をもって知ることにもなる。塗装業者の選択ができたり見積の見方も分かってきたりと、一般人の側から塗装の世界に近づく可能性もある。
海外の塗料が国内産より高品質なのは「家は自分で塗るもの」という古くからの文化があるからで、日本にも塗装文化が定着すれば塗料の発展も期待できる。
わたしたちは今、メンテナンスフリーの素材を使って暮らしの手触りを遠ざけていく潮流を経て、モノを塗り直し塗り直し使い続ける方がクールだという感覚を育み始めている。近い将来、塗装業は地に足のついたクリエイティブな職業としてもっと認識されるのではないか。さらに、現場をプロデュースできる“考える塗装工”が増えれば、暮らしのディテールから日本の街並み全体まで鮮やかに変容していくかもしれない。