未来の明暗を分ける、塗装業の捉え方
「塗装」という仕事は、鈴木さんが行っているような建物の壁に塗料を施すイメージが強いだろうが、椅子や机といった什器、漆器のような工芸品までその対象は大小さまざまある。塗装する素材も木材、コンクリート、金属類、プラスチックなど多様で、それぞれに使われる塗料も異なり、施工技術も変わってくる。
また、塗装方法には主に3つの方法がある。刷毛(ハケ)を使って塗料を伸ばす「刷毛塗り」は、作業に時間がかかるが細かい部分まで塗ることができる。「ローラー塗装」はローラーを使って広範囲を塗るのに適する。「吹付塗装」はスプレーガンで一気に広範囲を塗装するものだ。
これらを使い分け、また下塗り・中塗り・上塗りと適切なプロセスを経てきれいな塗装面をつくり出す。時間と手間のかかる作業だと言える。
塗装の“職人さん”が建築現場の内装作業をするイメージが強いのは、外装などに比べて生活者の目線により近いところにあるためだ。内装塗装は仕上がりに気を遣うことが多く、難易度が高い。一つひとつの仕事に知識や技がより求められる。
一方、外装の塗装は、耐久性や防水性といった機能性を求められる。経営面から見れば、大型マンションの大規模改修や公共事業、大規模商業施設など大手建設会社に紐づいた仕事は塗装会社の主な収入源でもある。ただ、こうした大型の仕事は今、厳しい価格競争にさらされている。
かつては東南アジアや中国など職業訓練生を受け入れることで現場をまわしていたが、現在では外国人が日本で稼ぐメリットは激減して人手不足が深刻化している。結果的に単価が上がるため、金額を見て安いところに頼むような流れが強まる。
また、塗装業界は主にフリーランスの職人に支えられているため、人材の育成と確保が難しくなっている。現場ごとの仕事の関係で終わってしまうことから “下を育てる”発想が生まれない、塗料や技術は日進月歩にもかかわらず職人がその知識や技をアップデートする努力を好まない、経営マインドを持つ職人がほとんどいないなど、先細りの未来が待っている。
加えて今年、長時間労働が法によって規制される「2024年問題」が重なった。単価が高いと気安く発注できないため現場が減る。かつては数ある塗装現場が若手の研鑽を積む機会であったが、現場が減ったことでそうした機会も減っているという。
塗装工の入らない建築現場も増えている。サイディング(外壁材)やクロスで仕上げれば塗装の必要はない。
スタジオA建築設計事務所を主宰する建築家・内山章さんは「サイディングやクロスが好まれるのは、ヒューマンエラーが少ないから」と指摘する。これは人手不足への対策と言える。
ただ、その一方で内山さんは「塗装は職人ごとに味わいが異なる“表現”であり、唯一無二なもの。その仕事によって暮らしや街並みの豊かさが変わってくる」と、塗装の仕事の意義を示す。